act.71『姿を消した』
(跡部視点)
最近、こももと仁王の出入りがやたら多い。
宍戸と別れたというこももが今も宍戸と絡む理由がいまいちわからなかった。
しかし、気づいてしまった。
「大学に上がるためには全科目60点以上採れないとダメだからなー?あ、ちなみに栄祥学園に行く奴は80点以上だからな?」
卒業出来るか、大学へ進めるか成績を見極める学年末テストでの宍戸の余裕が気になった。
リョウより宍戸がテストでAクラスのテストで60点以上を採るという方が難しいはず。
そのとき、ふと思い浮かんだのは宍戸が奨学金で高等部に通っていたということ。
俺はアイツが大学にまで進まない気がした。
「(まさか、働く気だろうか?)」
今の世の中で高卒程度の学歴は通用しない。
宛があれば別だが。
「宍戸!」
「あ?」
「おまえ……」
まだなにも言っちゃいねぇのに苦笑して、おまけにブイサインまでしやがった。
意味深長な行動に俺はどう反応して良いかわからなかった。
“なにも聞いちゃダメなときってあるじゃない?そっとしといてあげて?”
宍戸についてこももに聞いてそんな風に言われた手前、なにも宍戸には聞けなかった。
だが、宍戸が口を割らなくても悔いが残らないように聞くべきだった、と卒業式の日に思った。
式の最中に姿が見えなくなった宍戸。
家に帰ってきてから宍戸の部屋を見にリョウと行った。
そこで見たのは殺風景で、荷物が忽然となくなっていた。
『し、宍戸…?』
「まさか…アイツ出ていきやがったのか?)」
予想外の展開に目を白黒させていると背後からこももの声が聞こえた。
「そのまさか、だよ。」
「…ッ、オイこもも!!なんで言わなかった!」
「二人に言わなって宍戸くんと約束したんだもん。」
「チッ、」
こももと口論してるとリョウがこももに真剣な表情で涙を浮かべて言った。
『宍戸は、宍戸はどこ!?』
「…好きにさせてあげれば?」
『だって…犬は忠実にしなくちゃ…』
はっきりしない態度のリョウに苛立ったのか、こももは襟刳(えりぐ)りを掴んだ。
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