act.70『涙は急に止まらない』
(こもも視点)
お腹を満たすとようやく彼は話し始めた。
「なぁ、こもも?俺、所長(由紀恵の夫)に言われてさ…跡部んち出ることにした。」
「そっか…」
「卒業式の日に氷帝も出る、」
「え?なに、それ…」
「跡部がいるなら俺はいらないわけだし。」
「ちょ、待ってわけわからないから!」
宍戸くんの言いたいことが理解出来なくて、永遠とその話の説明を聞いた。
恐る恐るリョウちゃんに伝えるか尋ねれば首を横に振られてしまった。
もしかするとリョウちゃんを連れていくんじゃないか、とも期待していただけあってがっかりした。
「宍戸くん!!」
「んだよ?」
「景ちゃんは宍戸くんが同居するようになってからずっと、あのマンションの部屋の家賃を払ってるの!」
「え?」
「初めは根を上げて出ていくだろうから、って思ってたみたい。でも、今は宍戸がいつでもリョウと暮らせるように、って言って家賃払ってるの!」
「そっか、」
「ここまで来てなんで!?景ちゃん、宍戸くんにリョウちゃん譲るって…言、ってるのに。」
「……泣くなよこもも。」
「なんで肝心なところで…」
涙を堪えようとしたけど止まらず、溢れてしまった。
泣いているこももに宍戸くんは何も言わず、俯いたままだった。
お店を出て、佳梨にぃの家まで宍戸くんは送ってくれた。
マンションの門のところで立ち止まってこももは言った。
「こももが着いて行く。」
「………」
「だって!宍戸くんを一人でなんて――」
言い終わる前にこももの言葉を遮るように宍戸くんは頭に手を乗せてきた。
そして、苦笑しながら言った。
「こももはリョウと跡部を守ってやれ。それから…仁王のそばを離れんな。」
はっきりとは言わなかったけど、断られたも同然だった。
宍戸くんが孤独を恐れる人であることを知るこももにすれば心配でならない。
「卒業式まで1ヶ月ないよ?」
「ぼちぼち荷物をまとめる。」
「言ってくれれば手伝うよ?」
「サンキュー。考えれば結構いらねぇもんあるからよ?」
「捨てるの?」
「仁王と佳梨にぃが引き取ってくれるらしい。」
宍戸くんのことだから必要なものしか持っていかないだろう。
そうなるとかなりのものを引き取らなくてはいけない。
幸い、宍戸くんの私物は景ちゃんとリョウちゃんと過ごしてる部屋とは別の部屋にある。
荷造りに気を遣わなくて良い。
「そうだ、こもも?」
「ん…?」
「跡部とリョウには絶対に言うなよ?」
宍戸くんの心情を察したこももは言わない、と返事するしかなかった。
こももは常に宍戸くんの味方でいてあげないといけない。
あのチョーカーに気持ちを託したぐらいだから。
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