act.69『辛い過去がある』
(こもも視点)
景ちゃんにその日、女一人での夜道は危ないからって理由で駅まで見送ってもらった。
リョウちゃんに声をかけたけど返事はなかった。
「宍戸くんとこももには違うところがある。逆にリョウちゃんとは境遇が似てる。」
「境遇?」
「…親がいないこと。」
「こもも、じゃあ、おまえも…」
確かに肉親はいない。
パパは乱闘に巻き込まれて、ママは踏切でひかれて死んだ。
「こももには雅治の親がいる。本当の子供みたいに可愛がってくれるの。」
今は家族と呼べる人たちがいるから幸せだと思う。
「でもリョウちゃんも宍戸くんも親がいない。」
「あぁ、事故で亡くなった。」
「リョウちゃんの両親も事故だった。同じなの。」
ふと立ち止まり、景ちゃんと向き合った。
「それが飼い主の宍戸くんと恋人の景ちゃんの違い。宍戸くんへは愛情と景ちゃんへは同情。その違いなんだと思う。」
悲しげな顔をした景ちゃんにこももは笑いながら言った。
「まさしく負け犬なのよ、こももは。笑えるよね?」
そんな会話をしてから2週間後の話。
こももの携帯が部屋に鳴り響いた。
相手は宍戸くんだった。
「どうしたの〜?」
「こもも、今どこにいる?」
「佳梨にぃの家だけど?」
「…これから会えねぇ?」
「今から?」
「ダメなら明日でもいい、」
「ううん、今いいよ。」
「じゃあ、いつも待ち合わせしてたところな?」
待ち合わせ場所を確認し、電話を切った。
なにかあったのだろうか?
電話越しだったから正確ではないが声が少し緊張しているように感じた。
嫌な予感がしてすぐに家を飛び出した。
「ちょ、こもも、どこ行くん?」
「宍戸くんのところ!ちょっと行ってきまーす!」
「(こももには伝えていくことにしたんじゃな、宍戸。)」
雅治に見送られ、こももは待ち合わせ場所に向かって走った。
「お、来た。」
「はぁはぁ…ど、した…の宍戸、くん。」
「走らせちまったか。悪かった、」
首を左右に振って返事をした。
深呼吸を数回して呼吸が落ち着いたとき、宍戸くんにお腹が空いたと言われて適当にお店に入った。
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