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act.68『恐怖』
(リョウ視点)


こももはすべてを知ってるかのように言うから怖い。


「宍戸くんのこと誰よりもこももが知ってるわけで…」


みんなを傷つける。


「色々と面倒くさくなったから捨てた、」


だから私にとって怖い存在。


「もし、こももが景ちゃんを好きだって言ったらどうする?」

『景吾さんは私の――』

「私の、なに?」

『私の恋人なの。』

「へー?でもその恋人とすでにこももが関係あっても自分の恋人だと言える?」

『…え?』


彼女は私の本心を引き出せるけど、私は彼女の本心を悟ることは出来ない。


「こももと景ちゃんなら行くところまで行くもん、」

「おい、こもも!」

「…だいたい、リョウちゃんは宍戸くんが好きなんじゃないの?」

『私には景吾さんがいるし、そんなことあるわけ…ない。』


自信もなくなる。

景吾さんを愛してる、とはっきり言うことが出来なかった。


「前から思ってたんだけど、飼い主は大事じゃないの?」

『そういうわけじゃ。』


そう言った後、景吾さんが席を立った。

返答に困っているとまたこももが口を開いた。


「助けてくれる人、いなくなったね。」

『ッ、』


景吾さんもいなければ宍戸もいない。

今、こももと二人きり――怖い。


「で?飼い主はどうなの?」

『景吾さんを見捨てるわけにはいかないから…飼い主も大切だけど景吾さんも大切なの。』

「ふーん?なんで景ちゃんを見捨てられないの?」


うまく言い逃れられたと思ったのにまたも答えにくい質問。

私はこももみたいに機転が利かないからバカ正直に答えるしか出来ない。

それは良くも悪くもある。

恐らく今は後者。


『景吾さん、出会った頃泣いてて。理由はわからないけど、すごく辛そうで…』

「で、同情したんだ?」

『ッ、』

「だから景ちゃんといるのねー?納得ー!」


私の言う言葉をすべて悪く取る。

気に障るような笑い方をするこももに反論しようとした。

でも、こももに勝ち目はないことを思いだし、口を閉ざした。


「……同情が理由?バカみたい、」


なにも言えない。

景吾さんが愛してくれたから、私も愛してあげたいと思ったのが始まりだった。

そんな自分の人生観や恋愛観を否定された気分だった。


「こもも、もう十分だろ?」

『…………ッ、』


背後から景吾さんの声が聞こえて身が凍る思いをした。

まさか、すべて聞いていた?


「だって景ちゃん、」


景吾さんに会わせる顔なんかなくて、すぐにその場を去った。

彼が私を見て顔を歪めているとも知らず。

こももの言うように私の景吾さんへの思いは同情だとしたら、彼の気持ちを踏みにじったことになる。


『どうしたら……』


泣くしか出来ない私は人間らしい?

人間らしさを求めていたけど、そんなの嬉しくなんかない。


「ごめん、景ちゃん。虐めすぎたかな?」

「……わからねぇ。どの道、俺とリョウは破局すんだ。だから好きなようにやれよ。」


面と向かってこももに立ち向かうことが出来ない私は犬のときから進歩していない。


『……私は間違ってる?』


人間になることは私が想像していたより辛く、心痛を生じさせるものだった。





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