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act.62『さよならの前に』
(宍戸視点)


明日はこももと約束した日。

とうとう別れの日が来た。


「俺、出かけてくるわ。」

「夕食はどうすんだ?」

「たぶん泊まりがけ…明日帰ってくる。」

「……あぁ、わかった。」


俺は跡部に欠食を告げ、財布と携帯と約束のプレゼントを持って玄関へ向かった。


『あれ?宍戸、出かけるの?』

「あぁ、」

『気をつけてね?』

「ありが……」

『どうかした?』

「いや、なんでもねぇわ。じゃ、行ってくる。」


笑いかけてくれるリョウを見て思った。

約束の明日が過ぎたらこももは俺に笑ってくれなくなるのではないか、と。

不安に思うと自然と待ち合わせ場所へ向かう足は早くなった。


「(意外と早かったな、この半年。頑張ったよね、こもも。)」


広場にある大きな時計の下にこももの姿が見えると足並みは一層速まった。


「こもも!」

「ん?あれ、ずいぶん早かったね?」

「…あのよ?」

「さぁて。どこ行きますかね〜?」

「話聞けよ!」

「後でゆっくりね?」


俺が到着するとすぐに歩き始めた。

今は話を聞くつもりがないことを理解し、諦めて彼女について歩くことにした。

俺は歩き始めてからふと右手に持つ紙袋の存在に気づいた。


「そうだ、こもも?これ、約束してたやつ。」


そう伝えただけで中身が何か理解したようで彼女の表情は一瞬で明るくなった。


「開けて良い?」

「あぁ、」


プレゼントは自分のセンスを問われることにもなるからこももが開封している間は緊張していた。

しかし、包装を解いて中に入っているマフラーを一目見て、目を輝かせた。

そんなに心配する必要はなかったみたいだ。


「巻いてやるよ。」


こももからマフラーを受け取り、首に巻いて後ろで軽く縛ってやった。

喜んでもらえてよかった、と安心して胸をなで下ろした。


「可愛い?」

「あぁ。…マフラーがな。」

「うわ、ひどーい。」

「うそうそ。可愛い。似合ってる、」

「ありがとう。」


自分で選んどいて似合ってる、なんて言うのもなんだけど本当に嬉しそうに笑う彼女を見て、俺まで嬉しくなった。


「こももも宍戸くんに用意したんだけど、後でね?」

「ありがとよ。」

「今はとりあえず遊ぶのが優先!」


張り切っているこももは子供のように幼く見えた。

半日は買い物したり宛もなく歩いたり、街に繰り出したカップルに混じり、同じような時間を過ごした。

おそらく、夜も同じだろう。


「いつものくせでまたホテル(佳梨にぃの家)来ちゃった。」

「あのね、こもも?うちはホテルじゃないよ?」


よく二人で遊びに来た思い出深い場所である佳梨にぃの家に今日も来た。

恐らく、ホテル代わりに来るのはこれが最後だろう。


「これ、作りすぎたから食べて良いよ。」

「こももたちのために作った、の間違いじゃないの?」

「はいはい、なんとでも言いなさい。」


こももと佳梨にぃと三人でこんなやりとりも出来なくなると思うと寂しく感じた。





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