act.59『幸せを願う』
(こもも視点)
再び歩きだしたこももの手を宍戸くんは握ってから言った。
「今、俺はこももといれて幸せだからいい。」
「こももは宍戸くんが本当に幸せになることを望んでるんだけど?」
「それは俺をふってんのか?」
「違う。ふられてあげてるの、」
そう言ったこももを見て、宍戸くんは街中だというのに気にせず抱きしめてきた。
「こもも、俺はこももも好きだ。リョウとは違う幸せを味わえるんだ。」
「……うん、」
「こももがいなかったら俺、リョウを跡部に取られたって、ずっと拗ねてたと思う。」
「…うん、」
「こももが好き。でも、こももを好きになってわかった。リョウはそれ以上に好きだってこと。」
「うん、」
「傷つけてごめん…」
そう謝る宍戸くんの背中を叩いた。
そして、欲しいのはそんな言葉じゃない、と訴えると苦笑してまたごめんと言った。
「ありがとう、こもも。」
「…うん!」
涙で視界が歪んだ。
宍戸くんにとってリョウちゃんは特別な存在だということは初めからわかってた。
だから、彼が本当の自分の気持ちを理解してくれて嬉しかった。
それと同時に寂しくもあった。
「よし、じゃあ。元恋人へお礼としてマフラーを買ってやってください!」
「自分で欲しいもん主張してんな、」
「だってー!」
「何色が良い?」
「え?」
「マフラー。欲しいんだろ?」
そう宍戸くんに言われ、空を見上げた。
少し考えてから口を開いた。
「こもも、犬だからクリスマスとかやる習慣はない。」
「うん、」
「だけど、恋人にとってクリスマスは一大イベント。12月25日に宍戸くんが選んでプレゼントして?」
「クリスマスに?」
「それで終わりにしよう。」
なにが言いたいか理解してくれたみたいで彼はわかった、と返事をした。
こもものわがままを聞いてくれてありがとう。
少しでも貴方といたい、なんて口が裂けても言えないけど。
どうかこの悪あがきを許してください。
「それまでは腕組んでても良い?」
「……バーカ。すでに手、繋いでんだろ?」
宍戸くんは笑いながらこももを引き寄せてくれた。
いつもみたいに腕を組ませてくれると彼は言った。
「こももは最高の彼女だった。これからこれ以上に良い女は俺に当たらないと思う。」
それに対し、またも涙で視界を歪ませたこももは宍戸くんを軽く肘打ちした。
「そんな良い女を蹴ったんだから幸せにならなきゃ承知しないよ?」
「そうだな。」
「宍戸くん?」
「んー?」
「大好き、」
ワンテンポ遅れて宍戸くんの優しい声が上から聞こえてきた。
あぁ、どうか彼を幸せにしてください。
そう願った。
「俺もこももが大好き、」
ありがとう、愛しい人よ。
詐欺師は常に何かを被っていなくてはいけないから本心を悟らせはしない。
だけど、このときだけは素直でいたいと思った。
大好きだよ、宍戸くん。
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