act.57『代償』
(仁王視点)
事故でキスなんておいしい展開ではあるがやはりこももと跡部が気になる。
こうなることを望んでいたのにな。
「雅治、」
「おぉ、こもも。」
「見張りありがとう。どうだった?」
「なかなか面白いもんじゃったよ。」
宍戸を見張る役を引き受けた俺は後で劇中の事件を話すことにした。
宍戸のあの様子は間違いない。
もうこももの手を借りずに自分で気づいていけると思った。
宍戸がリョウに対する気持ちを確信するのは時間の問題だろう。
「そっちは?」
「……いいよね。」
「なん?」
「あんなにも人を愛せるのはさ?」
こももの表情は穏やかだった。
なにがあったか、聞いてはいけないと思った。
「跡部は?」
「寝てる。生徒会室で。」
「……こもも、」
俺が話しかけたときにはこももの瞳からは涙が溢れていた。
抱き寄せてこももに言った。
「見てるだけってのが辛いこと、ようわかったじゃろう。」
「うん、」
「みんなの辛い気持ちを理解してるこももがなにより幸せになってほしいと俺は思うん。だから、最後まで頑張ろうな。泣くんはそれからじゃけ。」
俺の言葉を受け止めたこももは涙を服の袖で拭い、辛そうに笑った。
きっと跡部となにかあったのだろう。
だが、こももから話してくれるまで俺からは聞かない。
そう思い定めたことを知っていたかのようにこももは話し始めた。
「こもも、景ちゃんを試してみた。」
「……そうか。」
「景ちゃん、やっぱりリョウを好きなのにこももを抱けないって言った。今まで愛されてたのに、急に他の人に心奪われた景ちゃんが可哀想になってきた。」
そう言うこももに俺は一言だけ言った。
「じゃけ、そうなるのをこももは望んでたはず。」
「……確かに。でも、恋愛がこんなにも複雑で、人を裏切り、傷つけるものだとは思わなかったの。」
リョウと跡部が幸せになれたとしても、宍戸は余る。
宍戸とリョウが幸せになれば跡部が余る。
どの道を取っても一人は辛い思いをすることになる。
すべてはリョウにかかっていることを本人は気づいていない。
「こもも、おまえが気を病まさんでいいんよ?」
「すべてを知ってるからこそ、なにかしてあげたいと思う。なのになにも出来ないの。なんて無力なんだろう?」
さらにこももは苦笑しながら俺に言った。
「人間て、大変なんだね!」
勉強になった、などと言うこももの表情は悲しみ一色だった。
俺は思った。
最終的な結論に至ったとき、こももに笑顔はないと。
それを補えるか、笑顔を取り戻してやれるか不安だった。
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