act.55『身代わり』 (跡部視点) 彼女といるとリョウや宍戸のことを必要以上に考えなくて良いから楽だ。 「……早く、時がこねぇかな。」 空を仰いだ俺を隣でこももはただ見ていた。 時の流れを待っている俺はこももの言っていることが正しいと理解した分、時計とカレンダーを気にするようになってしまった。 「何度見ても変わらないのにな、」 「変わらないように見えるけど…少しずつ変わってるんだよ。」 そう言うと俺を校舎の陰に連れてきた。 そして唇を奪われた。 呆気に取られている間に空気は変わっていた。 こももは自ら俺の手を誘導し、腰や後頭部に添えさせた。 そして、じっと俺を見つめていた。 「進んだでしょ?」 「……バカ、」 確かに抱きしめているのがリョウではないと思えば手放したくもなるはずだ。 しかし、手放したくないと思った。 「身代わりになるつもりか?」 「そうじゃないけどね?」 「宍戸にはもう代わりがいらないとわかったからか?」 「……今は景ちゃんが安らぐならそれでいい。」 「本当にバカだな。」 「バカで結構です。」 「そういうバカは嫌いじゃない。」 「ありがとう、」 苦しくなるまでキスをした。 このままなにか罪を犯すのではないかと不安になるくらい、こももの作った空気に流されてる自分がいた。 確かに、俺はこももを身代わりに見立てていた。 寂しさを紛らわせられるならそれでいいとさえ思った。 「エロッちぃキスするね?」 「人のこと言えるか。」 「このままやっちゃうかと思った。」 「……そういうことは言うな。」 悪戯っぽく笑うこももに頬を赤くしてしまった。 俺も思ったことだったからだ。 「白雪姫、見に行く?」 「……ッ、」 「それともここでセックスする?」 「……バカ、そう言うことは言わないって今言ったばかりだろうが。」 「こももは別にいいから言ってるんだけどね?」 俺は誘惑に勝てなかった。 肌の露出が多いこももを見るときは目のやり場に困るのだ。 「俺となんかやりたくないだろ、」 そう拗ねたように言えばこももは距離をグッと縮め、俺の目を見て言う。 「景ちゃんに抱かれたい。」 口先だけだとしても、今の言葉で俺の理性は崩れた。 外で女を晒(さら)すなんて出来ないと思った俺は生徒会室へ向かった。 → |