act.53『王子様』 (跡部視点) ふと自分の役職を思い出した。 それを恨みもしたが、そこから安心感を得た。 「俺は生徒会の仕事があるからステージ発表は出られない。」 『あ、そっか……景吾さんは審査員なんだ。』 「だからなんでもいい。俺は関係ないしな。」 そう言う俺にリョウは言う。 王子様役は絶対景吾さんがやるんだと思ってた、と。 それは純粋に俺にやってほしいということなのか、それとも皮肉か。 どちらにしても俺は最低だ。 「王子役は宍戸でいいんじゃねぇか?」 「はぁ!?」 「白雪姫役を自薦他薦問わず考慮したところでリョウに100%決定だろ。」 「確かに白雪姫のイメージにぴったりなのはリョウやわな。」 『で、でもまだ演目が白雪姫って決まったわけじゃ……』 リョウがそう俺に言う。 白雪姫じゃなくてもヒロイン役をAクラス内で決めようとした場合、リョウが適任だと誰もが思うだろう。 「ヒロインがリョウなら、相手役は俺が出来ない以上、宍戸がやるしかねぇだろう。」 「だからなんで俺なんだよ!!」 反論してくる宍戸を横目に忍足に言う。 「それとも、頭モッサリヘアーのエセ関西人に相手役が務まるのか?」 「ひどい言われようやな、」 「やるのか?」 「いや…宍戸に譲るわ。」 「だからなんで俺なんだよ!!」 納得しようとしない宍戸を黙らせるべく、俺は宍戸に訴えた。 「リョウの相手役が他の男でいいならいいんだぜ?」 「(跡部……もしかして自分、)」 何を言いたいのか、忍足にはわかったのかもしれない。 お姫様がリョウなら王子は俺ではなく、宍戸しかいないだろう。 「やればいいんだろやれば!」 「素直に認めればいいものを、」 「チッ、やりたくてやるんじゃねぇんだっつの。」 「やるからには恥かかないようにしろよ?Aクラスの王子様?」 「ムカつく野郎だな!」 隣で猿みたいにしてる宍戸に見向きもせず、俺は手元の資料を見た。 こんな形でしか負けを認められない跡部景吾なんか、ただ情けないだけよな。 「跡部、もしかして…」 感づいて忍足が俺に尋ねてきた。 それに対して俺はなにも聞かないでくれ、としか言えなかった。 → |