act.50『助け』
(跡部視点)
自宅に帰って、なにより大変だったのがリョウと宍戸といること。
三人の空間でどう過ごせばいいのかわからず、俺はとりあえず本に手を伸ばす。
『景吾さん、携帯が鳴ってるよ?』
「あ、あぁ。悪いな。」
『…なんか顔、赤くない?ね、宍戸?』
「跡部、おまえ熱あんじゃね?」
『計ってみたら?』
リョウが体温計を探し始めたのを見て焦った。
自分でも、もしかして熱があるかもしれないと思ったからだ。
俺は携帯のディスプレイをふと見て、それが電話であることに気づいた。
相手を知って、少し安心した。
「悪い、少し出てくる。」
『え?だって熱、』
「おい跡部!」
走って二人から逃げた。
心配はかけたくなかったし、同情はいらなかった。
「もしもし。」
「やっと繋がった。景ちゃん、ちっとも出てくれないんだもん。」
「悪い、」
「今ね?景ちゃんちに向かってるところなんだけどさ?」
こももが電話越しに言うことを俺は正確に受け取れなかった。
めまいがした。
「聞いてる?」
「……ち、わ…い。」
「え?なに?」
立っていることも出来ず、俺はその場に座り込んだ。
吐き気もしたからだ。
受話口からこももの声が聞こえてくるが俺はその声に応じることさえ出来なかった。
「雅治!あそこにいるの…」
「間違いなか。」
「景ちゃん!」
俺に駆け寄り、背中をさするのがこももだと声でわかった。
その時、吐き気がひどくなる。
「ッ、吐く…!」
「え!?なにか袋!」
こももは慌てて持っていた紙袋の中身を空けて俺に持たせた。
吐いて少し落ち着くとティッシュで口を拭ってくれた。
「…大丈夫?」
「こもも…」
安心した俺はその後、意識を手放した。
体調が悪くも外に出た俺を不思議に思ったのか、こももは俺を自宅に運ぶことはしなかった。
「佳梨にぃに連絡ついた。アイツんとこ行くぜよ、」
「景ちゃん担げそう?」
「余裕じゃ。」
目が覚めたとき、始めに見たのがリョウではなく、こももだったことに安堵したことは忘れない。
今はリョウと会いたくなかったからだ。
「あ……目、覚めた?」
「ここは?」
「雅治の友達の家。安心して?リョウちゃんと宍戸くんにはこももが景ちゃんを拉致った、って言っといたから平気だよ。」
そう言ってこももは俺の額の汗を拭った。
「なんか言ってたか?宍戸たち。」
「ううん?出かける前、体調悪そうに見えたからあんまり無茶させるな、って言ってた。」
「そうか…」
部屋の時計を見て目を疑った。
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