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act.49『空虚』
(跡部視点)


こももに連れられ、宍戸とリョウの様子を見に来た。

すると宍戸とリョウがありえない状況にあった。


「なんや、リョウ寝てもうたん?」

「きっと疲れたんですよ。朝も早かったですし。」

「風邪だけはひかないようにしなくてはいけませんよね。俺の上着被せましょうか?」

「いや、ありがとな長太郎。リョウは寝かせてくる。」

「じゃあ、俺ついてく!」

「んじゃ俺も帰るC〜」

「ウス、」


リョウを抱く宍戸がみんなと笑い合っていたのだ。


「お、宍戸くんてばこももとの特訓の成果発揮してんじゃん?」

「特訓だと?」

「宍戸くんがリョウちゃんとうまく接していけるようにね?こももがボディタッチさせてたの。」

「……変なこと覚えさせんな。」

「身体は正直なんで?」


こももを睨んでやるが俺なんかお構いなしに怪しく笑っていた。

彼女に怖いものなんてないのだろう。


「こももたちも戻らない?」

「……あぁ、」

「これを機会にリョウを宍戸くんに返却するのがよろしいと思います。」

「うるせ、」


折角の青い綺麗な海が色あせて見えるほど、俺は悩んでしまうことになった。


「考えても答えなんか出やしねぇ、」


楽しむはずだった避暑地での予定すべてが台無しになった気分だった。

俺は一人、宍戸やリョウの輪に入れず、遠目で眺めていた。

気が付けば、自分で煎れたコーヒーを無駄にスプーンでかき混ぜていた。


『ねぇ、景吾さんは?』

「アイツどこに行ったんだ?」


時たまリョウや宍戸たちが俺を気にかけて辺りを見回していた。

しかし、俺の姿を見つけられず諦めたのか、また楽しそうに笑いだした。


「………結局、俺が悪いんじゃねぇかよ。」


そうポツリ、こぼした涙と言葉を誰も受け取ってはくれなかった。


「(景ちゃん……)」


焦点があわないまま、生活するのがこんなに苦痛だとは思わなかった。

なにをするのも上の空。

それ依然に自分がなにをすればいいのかもわからない。

リョウを見ても結局、宍戸のことがあるから考えたくない。

すべてがモノクロに見える。

これが空虚感?


「ずいぶん落ちぶれたもんだな。」


恋愛で悩んだことがなかった跡部景吾がこの歳で悩むとは。

すべてをリセットする方法はないものか。


「あ、雅治?こももだけど、」

「よぉ、ことはうまく進んどう?」

「進んでる。進んでるけど…ダメ。可哀想で見てられないの。」

「仕方なかよ。リョウは宍戸のなん。跡部が苦しむとしてもすぐに忘れるって。」

「…そうかな?景ちゃんを見てるとそうは思えないな。」

「こもも。宍戸のあの切ない目、忘れたわけじゃなかよね?」

「忘れてない。でも……」


初めて恋愛することが怖いと思った。

人を本当に愛することがこんなに苦しいことだなんて知らなかった。


「俺もまだまだだな、」


失うのが怖くて、二度と人を愛せないと思った。





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