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act.44『欲望との葛藤』
(跡部視点)


俺が隣に並ぶと彼女は俺の方へ向き直った。

そして、寂しそうな笑みを浮かべていった。


「遠回りしたとしても、最終的に良い方に向かうんならそれでいいじゃない?」

「こもも、」

「んー?」

「おまえは綺麗ごとばっかりだな?」

「そんなことないよ?」


そう笑ってくれたが、その笑みは悲しみが溢れていた。

なにを言えば、またなにをしてやれば良いのかわからず、時間だけが過ぎた。


「景ちゃん、あなたはリョウちゃんのところに帰りなさい?」

「おまえは?」

「散歩してくる、」


引き留めたがうまくいかず、こももは歩いていってしまった。

暗くなってきてるから出来るだけ早く戻るように伝え、俺は戻ることにした。





みんなの元へ戻れば悪くなっていた空気はなく、それなりに盛り上がっていた。

宍戸とリョウが楽しそうに花火をしていたのが意外だった。


「跡部さん、」


俺が一人で戻ってきたのを見て近づいてきたのは日吉だった。


「こももさんは?」

「一人がいいんだとよ、」

「そうですか。」

「心配してるのか?だとしてもアイツなら平気だと思うぜ?」

「女一人で平気なわけないでしょ。」


そう憎まれ口を叩かれた。

確かに、こももは犬である以前に女なんだと改めて自覚した。


「こももさん、さっき口論してたとき、自分を偽って発言していたように感じたんです。やはり仁王さん(ペテン師)の愛犬だなぁ、と。」


日吉にそう言われ、思い返せば確かにこももの発言には引っかかりがあった。


“みんなが幸せなら”


自分は二の次で良いと言うのか?


「あ、跡部さん。みんなで星見に行くって聞きましたけど行きますか?」

「あ、いや…」


なんとなくこもものこともあり、みんなと行動しにくかった。

日吉はなにが言いたいか察してくれたみたいでみんなの元へ戻り、うまく説明してくれた。

それを聞いてリョウが俺の元へ来た。


『景吾さん、』

「悪いな、リョウ。」

『具合悪いの?』


心配してくれるリョウを見て、いつか宍戸の元へ返さなくてはいけないのか、とぼんやりと考えていた。


『景吾さん?』

「あ、あぁ。平気だ。急にやることが出来たから星は見に行けない。」

『そ…なんだ、』

「悪いが宍戸に連れていってもらえ、」

『わかった。』


残念そうに宍戸の元へ行くリョウを見て、引き留めたくなる。

だが、こももの言うことが当たりなため、それさえも出来ずにいた。


“リョウが本当に幸せなら”


しかし、人間は欲望の固まりだ。

手放したくはない、と思う俺もいた。





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