act.42『発破掛け』
(跡部視点)
リョウの顔は強ばっていた。
実の姉妹でも質の悪そうなこももは怖いだろう。
『……知らなかった。こももが人間になってるなんて、』
「雅治の意向でね。」
口にはしなかったがリョウは察しただろう。
本屋で見た宍戸と歩く自分に似た人物はこももであったことを。
『宍戸と……付き合ってるの?』
「付き合ってはないよ?ねぇ、宍戸くん?」
「あ?あぁ、」
『じゃあ、どうして手――』
恐る恐る口を開いたリョウを見てニヤリと口の端だけあげて笑うこもも。
あの笑い方を俺は知っている。
仁王もそうだが、なにか企んでるか自分の術中にはまったときに見せるものだ。
「これは恋愛ごっこ、もしくは恋人ごっこ中だから。」
そうこももは言うが本気で宍戸にアタックしてるくせによく言いやがる、と心中で悪態をついた。
『なら、好きじゃないの?』
「……好きだよ?」
こももは一瞬、真剣味あふれる顔を見せるたかと思うとふと柔らかく笑い、宍戸を見た。
「宍戸くんのこと、こももはすごく好きだよ?飼い主(雅治)とは違う気持ちになるの。」
そう言うや彼女は表情が固まってるリョウを見て楽しそうに笑った。
しかし次の瞬間、冷たい、冷酷な笑みに変わる。
「だから、宍戸くんはもらっといてあげるよ。」
『…え?』
「だってリョウちゃんには跡部くんがいるじゃない?」
発破をかけてそう言った言葉に誰もがこももを見た。
その時にはふつうの笑みに戻っていた。
「こんな言い方はよくないね。はっきり言いましょうか?」
ふっと笑うとこももは勝ち誇ったような顔をしてリョウを見下しつつ言った。
「宍戸くんはこもものだから。リョウちゃんは邪魔しないでよ?」
『…………』
「格好いい景吾さんがいれば、ただの飼い主さんは必要ないんじゃない?」
『ッ、』
それを聞いた周りはこももに対して苦手意識を募らせただろう。
しかし、これは本当のこももではない、と俺にはわかった。
リョウに真実を、彼女自身の気持ちを悟らせるために発破掛けたにすぎないことを理解した。
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