act.40『判断を誤っただろうか』
(跡部視点)
夏が来た。
俺たちの間には波乱を巻き起こす予感、そして空気が漂っていた。
「来たか、」
こももから家を出た、と連絡してきてから数時間が経つ。
現地に到着する時間を見越して一人、一台の車を待っていた。
車が見えると期待が膨らんだ。
そう、プライベートビーチに約束通り、こももは宍戸を連れてきてくれた。
「すんごい空気さわやかー」
「…………」
「怒ってる?」
「別に、」
「景ちゃんのプランにのっかったのがイヤ?」
不機嫌そうに車のドアを閉めた宍戸にこももが機嫌取りにかかる。
端から見ればイチャついているだけだが。
俺は近づいていって声をかけた。
「こもも、宍戸、よく来てくれたな。」
声を聞き、すぐに宍戸から離れてこももは俺に向かって走ってきた。
「景ちゃーん!!」
「ッ!」
すごい勢いで飛びつかれ、俺はこももを受け止めるのに精一杯だった。
体勢を整えてからこももの頭を撫でた。
「約束守ったんだからご褒美ちょうだい?」
「あん?ご褒美?」
思考を巡らせてる間に俺に顔を寄せるこももを見るや宍戸が慌てて俺たちをひっぺがした。
そしてさらに不機嫌そうにこももを睨んで言った。
「こもも、なんだよ約束って。」
「宍戸くんを必ずここに連れてくるって景ちゃんと約束してたの。」
しかし、本人は宍戸の反応に喜んでいるように見えた。
「やっぱ帰る!」
「えー?せっかく長旅して来たのに?しかもリョウちゃんもみんなもいるんだから楽しんでいこう?」
こももには皮肉にしか聞こえないだろうが俺には宍戸の腕にしがみついて甘える姿が本当の恋人同士に見えた。
「大丈夫!帰る時には笑ってるって、ね?」
「…………」
優しく微笑んだこももを見て、宍戸も渋々という感じで承諾した。
宍戸はあの笑顔に弱いんだな、と見ていて思った。
それはきっと―――
「…ちゃん?ねぇ、景ちゃん?」
「………あん?」
「聞いてた?」
「あ、あぁ、悪い。」
「んもー!だからみんなのところ連れてって?」
「あぁ、こっちだ。」
きっと、その笑顔がリョウのものと似てるからだろう。
二人をみんなの元へ案内した。
すると宍戸は来るかわからない、と残念がっていた仲間たちが嬉しそうに宍戸を迎え入れた。
「オッス、宍戸!」
「おー」
「まさか来ると思わなかったC!だから俺すんげぇ楽しみにしてたの!!」
ジローが嬉しそうに宍戸に駆け寄ったがその足はピタリと止まって、全く動かなくなった。
「ジローどないしたん?」
不思議そうに忍足がジローの元へ来ると忍足も動きが止まった。
二人は目を見開いていた。
「こんにちわー」
こももの存在に気づき、その場にいたみんなが同じ反応を示した。
「「えー!?」」
こももを見てか、宍戸が女を連れてることに驚いてか――いや、すべてに驚いているのかもしれない。
あの奥手で有名な宍戸が女と一緒にいて、手を繋いでいる女はリョウにそっくりなんだから、驚くのも無理はない。
俺はその時のリョウの反応も見逃さなかった。
青ざめたような、ショックを受けていたような……
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