妹が出来た日
俺なんかに問題を解決することなんか出来ない。
なのに、俺は真衣を連れ帰って来てしまった。
「ただいまー」
「あらブン太、遅かったわね。」
俺が帰宅したことに気づいた母さんが台所から玄関まで出迎えに来た。
俺の抱えている真衣を見て母さんは黙ってしまった。
「あ、こいつ、廉生真衣って言って、公園で会って、一人で……」
先の真衣の出来事を思い出すと涙溢れ、崩れてしまった。
それを母さんは抱き寄せて、背中を撫でて落ち着かせてくれた。
「落ち着いて?話は最後まで聞くから、リビングで話して?」
「うん、」
腹の大きい母さんはよいしょ、とかけ声をかけて立ち上がった。
俺は母さんに続き、リビングに来てソファーに腰掛けた。
俺の腕の中で泣き疲れて眠っている真衣を見て母さんがまた立ち上がろうとした。
「コウ太のお昼寝用のお布団じゃ小さいかしら?」
「俺が出すぜぃ。」
「あら、ありがとう。」
出産が近い母さんに出来るだけ負担をかけてはいけない、兄として出来ることは母さんを手伝ってやることだ――と、父さんに言われていたため、自主的に真衣のために布団を敷いた。
コウ太とは俺の弟。
「話してちょうだい。ブン太のお腹が鳴る前に、」
母さんは俺をそう優しく促してくれた。
気持ちを落ち着かせて話し始めた。
「今日は変な言葉を使う友達と仲良くなった。部活見学も一緒にした。気持ちよく一日が終わると思ったら真衣に会って、母親のところに連れて帰ると知らないって。」
「そう。ブン太も真衣ちゃんも辛かったのね。ブン太は優しいから真衣ちゃんを一人残して帰ってこれなかったのね。」
「真衣、可哀想なんだ。公園で話しかけたとき、優しいママが来るの待ってるって言ったんだ。」
「ブン太。母さんたちが真衣ちゃんにしてあげられることは限られてしまうわ。でも、父さんに相談してみる。」
「?」
俺が帰宅後、わりと早い時間に帰宅した父さんに母さんは手短に話しをして真衣を見た。
「そういうことならいいだろう。ただ、君は出産間近だし、」
「私はブン太の優しさを踏みにじりたくないのよ。無茶はしない、約束するわ。」
真衣に関して母さんが父さんとなにを話したかわからない。
でも、真衣がその日、俺らの家族に仲間入り出来るかもしれないことはわかった。
「さて、ご飯にしましょうか。あなた、コウ太呼んできて?ブン太、真衣ちゃんの分の食器を追加で棚から出してちょうだい?」
「おう!」
真衣の分の夕飯を母さんが準備してくれた。
それだけで嬉しかった。
『ん……あれ?』
食事中、真衣が目覚めたのに気づいた母さんが俺に目配せした。
それでコウ太の布団を見てみれば、真衣が身を起こしていた。
「真衣、起きたのか?」
『……』
「あ、俺の父さんと母さんと弟のコウ太。真衣のご飯もあるぜぃ?」
『……おうち、にかえる。』
「だって、ママは出掛けただろぃ?」
『……』
「飯くらいうちで食べていけって。な?母さん、ハンバーグ作ってくれたし。」
『ハンバーグ?』
真衣の瞳が一瞬輝いたように見えた俺は真衣を抱えて、食卓に連れてきた。
「ご挨拶。」
『かどきまいです。』
「ぼく、こうた!」
「真衣ちゃん、お腹空いたでしょ?遠慮しないで食べて?」
『ありがとうございます、…お、おばさ…』
母さんは父さんの顔色をうかがうように視線を向けると無言で父さんは頷いた。
それで母さんは真衣に言った。
「呼びやすいなら“ママ”でもいいのよ?」
『!』
「どう?」
『マ、ママ!』
「さ、真衣ちゃん。ママの力作、ハンバーグを食べてちょうだい?」
『はい!いただきます!』
真衣が一口、口の中にハンバーグを入れると満面の笑みを浮かべて喜んでいた。
それを見て、母さんは嬉しそうだった。
「真衣?」
『なに?ぶんたおにいちゃん。』
「もう大丈夫だぜぃ。俺たちがいる。」
『ありがとう!』
小さすぎて真衣にはわからないこともあっただろう。
でも、素直に受け入れてくれたから、真衣は俺らの家族になれたんだ。
「コウ太、真衣ちゃんはコウ太のお姉ちゃんになるんだ。仲良くしてもらいなさい。」
「ぼくのおねえちゃん?」
そう父さんの言葉を聞き、真衣は背筋を延ばし、姿勢を正した。
この日、ひとりぼっちだった真衣に新しい家族が出来た。
3歳の弟と中学1年生の兄と優しいママとパパ、それに次期、弟が出来る。
幸せな家族になろうな?
俺はそう、真衣に心の内で約束した。
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