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はじめの一歩


中学に上がって同じクラスになった仁王雅治にみんなが興味を抱いた。

スラッとした身体に銀色の長い髪が似合う男。

口元のホクロが妖艶さを醸し出し、同じ中学生なのにそう感じられなかった。


「なぁ、仁王?」

「なん?」


アイツは転校生でここらのイントネーションとは甚だ違いがあった。

だからみんなが奴に注目していたわけで、俺も仲良くなろうとした一人だった。


「いやー…その、えっと…」

「……用がないなら声かけなさんな。」


声をかける度に仲良くなるどころか毎回冷たくあしらわれ、距離が縮まることはなかった。

一匹狼みたいな性質があり、誰に声をかけられても仁王からの大抵の返事は冷たく感じられた。


「一緒に飯、食わねえ?」

「……」


学食があるのに仁王はなぜかいつも弁当を持ってきていた。

教室で一人、昼食をとる仁王に俺は断られることを覚悟して声をかけたっつーわけ。

弁当を開けた時を見計らって近づいた俺の考えを悟ったのか、仁王は黙って俺を見た。

しかし、すぐに弁当を広げた。


「…あ、」

「な、なんだよ?」


仁王の言葉に過剰反応した俺はその場で硬直した。が、仁王の視線は手元の弁当に向いていた。

固まっている仁王の手元をのぞき込んで俺は黙ってしまった。


「姉貴の奴、弁当わざと入れ違えよったんじゃな。たく、帰ったら覚えときんしゃいよ。」


仁王はそうぶつぶつと呟くと箸を取り出し、弁当に向け、ふと思い出したように立ちっぱなしの俺を見上げた。


「座ったらどうじゃ?」

「…いいのか?」

「自分から一緒に食おう言うたんじゃなかの?」

「お、おう!サンキュー!」


俺は仁王の前席の奴の椅子を借りて仁王と向き合って座った。

そして朝、買ってきたパンの袋を開けながら言った。


「俺、丸井ブン太。」

「知っとうよ。自己紹介聞いとったし。」

「…そっか、」


仁王は弁当に箸を向けたまま先から動かない。

というのは恐らく弁当が原因だろう。


「……仁王って、姉貴さんいるんだな?妹もいんの?」

「いや?」

「え?じゃ、それ…」


可愛らしい弁当箱には星形に象(かたど)られた人参入りのポテトサラダやハート型のチーズが乗ってる小さなハンバーグ、きんぴらゴボウにウサギのリンゴ。

ご飯にはスクランブルエッグが振りかけてあり、海苔で目をつけ、オレンジの沢庵(たくあん)をうまく切り、くちばしと見せていた。

俺にはヒヨコに見える。


「姉貴の陰湿なイタズラじゃけ。」

「ふーん?で、食わねえの?」

「これしか食うもん持っとらんしねえ。」


仁王はそれを食べ始めたのだがやはり見た目が嫌らしく不満そうに食べていた。

俺は弁当を食べる仁王を見ていて、奴はただクールなだけなのだと思った。


「はぁ、真衣の食うてもうた。」

「誰?」

「なんでもなかよ。」


必要以上語ろうとしないのも奴の性質、または性格なのか。

だとしても、そんな態度では冷たく見えて当たり前だと内心思っていた。


「あ、部活入る?」

「一応、予定はしとう。」

「何部何部?」

「さぁね、」

「なんだそれー」


でも、その日。

仁王雅治と少しだけ仲良くなれた気がした。と、いうより仁王の接し方が少しわかった気がした。

誰か奴の取扱説明書くれー!





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