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小さかったはずの妹


仁王を信じ続けろと自身に言い聞かせ、真衣がいるであろうクラブハウスへ向かった。

俺、すげぇ緊張してる。

手がジワリと汗をかいたのがわかった。


「真衣もいい女になったもんじゃ。なんか悔しいのう。」

「なにが?」

「真衣はブンにとられ、ブンは真衣にとられ…妬けるのう。」

「なんの話だよ!」


俺の表情が強張っていたのだろうか。

仁王は俺の頭をぐしゃぐしゃと撫で回してきたがそれのおかげで緊張していたことを忘れられた。


「仁王…俺、」

「あー…ブンからの告白は嬉しいが「だーかーらー!なんの話だっつの!」


俺の反応で笑う仁王についつい子供のように頬を膨らませてしまった。

俺の背中を押して、クラブハウスへ進むように促した。


「俺で練習なんかせんでよかよ。告白の場合、ぶっつけ本番のが気持ちは伝わるんじゃ。」

「だからっ!」


振り回されてる様子を見て楽しんでるようにしか思えなかった。

でも、仁王なりの気遣いだったのかもしれない。

俺が仁王に言いたいことがなにかわかっていたんだろう。


「おまえさんが知りたい答えは真衣が知っとうよ。」

「真衣が…?」

「まず、真衣になんで里帰りしたときに俺から逃げたのか聞いてみんしゃい。」


仁王に言われたことを頭の隅に置いた俺は一人、クラブハウスの建物内へ入った。

受付・案内カウンターからちょっとだけ髪の毛が見えた。


「あの、」

『あ、はい!少々お待ちくださいませ。』


カウンター向こうで屈んで作業をしていた真衣は少しの間の後に立ち上がって俺を見た。


『ブ…っ!』

「…よお、久しぶり。」

『おかえりなさい。』


久しく見る妹は俺が知ってる子供ではなくなっていた。

お互いなにも話せず、気まずい雰囲気の中、ふと思い浮かんだのは仁王の言葉だった。


「なぁ、真衣。俺に会えて嬉しいか?」

『え?…あぁ、もちろん。』


微妙な反応だった。表情も困惑していた。

でもそれは俺も同じだろう。


「なんで前、帰ってきたとき…会ってくれなかった?」

『それは……』

「仁王は真衣が俺から逃げてたって言ってた。」


真衣はそれを聞くと唇を噛み締めた。

なにか事情があったとしても、俺から逃げたことは否定しないということは事実なんだな。


『だって…どうすればいいかわからなかったんだもん。』

「なにが?」

『ブン太お兄ちゃんはずっとお兄ちゃんだって思ってたのに…はるにーに否定されて、』


泣き出しそうな真衣を前にどうしたらいいかわからなくてあたふたしつつも、真衣を慰めようと俺は言った。


「真衣は俺の大事な家族に変わりねぇって!ずっとな?…つか、仁王もどうかしてるっつの。なんなんだアイツ、そんなに俺の家族にケチつけたいのか!?」

『私が…はるにーの家系だって聞いて、どうしたらいいかわからなくて…』

「……は?なに、仁王の家系って。」

『聞いて…ないんだ?』


仁王からは一切なにも聞いていない。聞いたことと言えば、真衣にふられたこと。


『私のお母さん、はるにーのお母さんのお兄さんの娘なの。』

「……つまり、母方の親戚なわけね。」


そう聞いて中学時代の仁王の言動の意味を理解した。

それと同時に自分の愚かさに胸が痛んだ。

まさかそんな展開ってないだろ。


「仁王が真衣をいつも気にしてたのは仁王が真衣の兄貴だったからか…」

『聞いた話では私の苗字、仁王ならしいの。でも、丸井家にいてそれは酷だと考えた親たちの意向で私は廉生と知らずに名乗ってた。』


口だしする権利がないのは自分の方だったと気付いた。

知らなかったとはいえ、仁王にずいぶん酷いことをしたのにアイツはそれでも俺と一緒にいるんだもんな。

本当にアイツは……


『暗い話はやめよう。仕事はどう?順調?』

「俺が聞きてぇよ。真衣は?」

『順調だよ。』

「俺にしたら真衣が跡部に関わってることが不安だ。なにせあの跡部だし。」


そう苦笑して言えば、真衣は怖い表情で言った。


『いつまでも子供扱いしないで。』


俺の妹はもう幼くない。

子供ではない――

だれかに俺らの関係を否定された時点で“兄妹”でいられなくなった気がした。

苦しいような、安心したような。

わからないのは以前のような関係に戻りたいとは思わなくなったこと。





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