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大切だと気づいた


3年になった時、仁王とクラスが偶然にもまた同じになった。

最後に話をしてから1年が経過しているから、どう声をかけて良いかわからなかった。

不和のせいで“初めまして”なんて言われたら、と不安だった。

でも、あいつ――


「また1年、ブンと同じクラスなんか。賑やかになるのう。」


なにも隔たりを感じないのか、あのことを忘れてくれたのか、難なくふつうに話かけてきた。

だから余計、あの時に小さなことで怒っていた自分を恥ずかしく思った。


「よろしくな。」

「お、おう!」


真衣にも仲直りしろって言われてたし、ちょうど良かった。

1年越しの仲直りでも、きっと真衣は喜んでくれるに違いない。


「仁王、あの時は悪かった。」

「あん時?……いつじゃ?」


意を決して謝ろうと心構えしていたのに間の抜けた返事に転けそうになった。

仁王みたいに俺も大人になりたい。


「また、友達してくれるか?」

「1年の時に同じクラスでおまえさんが言う“友達”ってやつじゃった。じゃけん、俺はあん時からずっと友達って思っとうよ?」

「……うん、」


仁王の優しさがじんわりと俺の胸を暖めていった。

この嬉しさを帰ったら一番に真衣に報告したいと思った。

そう、嬉しかった。


「うし、仁王!購買行こうぜぃ!」

「はぁ?これから1限目じゃよ?」

「いいんだよ!」

「はいはい、お供いたします。」


でも、同時に俺はこの男の生き方に憧れ、この男の性質を羨んだ。

ゆえに俺は仁王雅治をほかの友達の誰よりも信頼し、慕うようになった。



だから、今回の意味深長な発言にも深い意味があるはずだ、と思った。



ところでその日の翌日。

俺がレギュラー入りを果たしたある部活でのこと。

仁王は準レギュラーから持ち上がったために部活でも一緒に過ごすことが増えたわけで。


『ブン太おにいちゃーん!』


そのことを知った真衣が学校帰りに俺らの仲直り告白の事実を確かめに見学にきた。

ボディーガード付きで。


「真衣!」

「(なんじゃ、雅暁も一緒なんか。)」


俺は真衣が来てくれたことで嬉しい反面、副部長の真田から喝を入れられることを恐れていた。


「丸井!」

「まぁまぁ真田。妹さんが見学に来たって言うんじゃ。」

「……危ないからコート内には入れるな。」

「へいへい。」


でも、仁王が気を使ってくれたからその心配はすぐに解消された。

おかげで真衣が来てくれたことを心から喜べた。


「真衣〜来るなら来るって言ってくれればよかったのによ〜」

『だって、あきくんがナイショにしておどろかせようって言ったから。』

「で、こいつが仁王の弟の“あきくん”ね?」

「……」

「いつも面倒見てくれてありがとよ。」

「いえ、」


俺が雅暁と話している間、真衣は遠く、フェンスの向こうを見ていた。

その目が仁王を捕らえているとわかった。

きっと、仁王のことだから俺に気を使って一緒に真衣のところまで来なかったんだろう。


「におー!」

「…なん?」

「なにしてんだよ!“弟”が会いに来たんだぜぃ?」


真田の耳に入るようにわざと声を上げて呼んだ俺に対して仁王の口が動いた。

気のせいじゃなければ……バカ。

けど、その顔がどこか嬉しそうに見えたから知らないふりをした。


「よ、雅暁。朝方ぶり。」

「おう。」

「よ、真衣。1年ぶり。」

『……はるにー……』


久々に見た仁王の姿だ。

真衣は安心したようだった。


「すっかり大きくなって。時の流れは早いのう。」


仁王はそう言って笑い、ジジ臭いかけ声を発しながら真衣を抱き上げた。

二人の表情はいつになく穏やかだった。


『はるにー元気?』

「ん。真衣は?」

『元気!』

「それはなによりじゃ、」


もうヤキモチは妬かない。

俺は仁王を信じてるから――。

気づいた。

俺が真衣を大切に思うように仁王も俺と真衣を大切に思ってる、ってこと。






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