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愛情という名のエゴ


「ふ、懐かしいな。」


真衣との思い出を振り返り、口からこぼれた言葉を聞いて隣で運転していた仁王は言った。


「滅多に帰ってこんのじゃから懐かしくて当たり前じゃ。」

「え?あ、そうだよな。」


仁王の発言で自分が先の言葉を口に出していたことに気づき、気まずい空気になるのはごめんだ!と内心で思い、目を窓に向けた。


「そういや、真衣にアタックしとったんよ俺。」

「はあ!?」

「まぁ、落ちつきんしゃい。ブンがこの前に里帰りした時、真衣おらんかったのは俺のせいなん。」

「…もちろん、ちゃんと説明してくれるよな?」


ただですら読めないのに仁王の横顔では感情が全く読めない。

俺はそう言ったが、仁王から返事がない。


「ふられた、とだけ言うとこうかねえ。」

「仁王…おまえ、真衣が?」


仁王が俺をちらっと見て苦笑したのを見て俺は胸がチクリと痛んだ。

理由はわからない。


「知らなくて悪い、」

「いや、知らんかった方がよかったかもしれんし。結局、真衣を困らせてしもうたわけで。あんとき、ブンが真衣に会えなかったんは俺んせいじゃ。」


仁王は多くを語るタイプではない。

だから言葉数が足りずに誤解が生じたり、意味深長なことばかり言う奴だと思われたりする。

でも、俺は仁王のこと知ってるから、俺にはわからないなにか深い事情があるって思えた。


「まっすぐ家でよかの?」

「あぁ。」


きっと、仁王のことだから自分勝手だったり自己本位の行動をとることはしない。

だから今は聞かないでおく。


「そういや、跡部が最近このあたりをうろうろしとう。」

「は?なんで跡部?」


ちょっといなかった間に不審な出来事があったなんて不安だ。

それがもし、真衣に関係しているならと、思うあたり過保護な兄と化していた。


「真衣の職場の上司。」

「マジで!?」


今の仁王は俺の反応を見て楽しんでいるようにしか見えない。

そんなに俺の反応はおかしいのか。


「跡部財閥の神奈川にあるテニスクラブを一任されとうから真衣。」

「……俺、なんも聞いてねぇ。」

「して、家を出るってよ。」

「は!?」


待て待て待て。

なんで俺がいない間に話が進んでんだよ!


「仁王、それいつ知ったよ?」

「昨日?」

「嘘つけ!おまえならもっと早くから情報得てたはずだ!!」

「ちょ、危ないっちゅうに!」


仁王が運転していることなんかお構いなしで襟刳り掴んで揺すった。

なにかある、仁王は俺に恨みでもあるんだ!なんて内心で決めつけ、仁王に食ってかかった。


「はぁ。鈍感なんじゃから。」

「あ?」

「ブン、真衣がどうしようがもう20歳を目前に控えとうし。おまえさんが口出しする権利も義理もなかよ?」

「……」


仁王に兄妹愛を否定され、胸にぽっかり穴があいた気分だった。

18歳、確かに真衣なら自分で物事を決定することだってできる。

丸井家の世話にならなくとも生きていくだけの力がついていると考えるのも妥当だ。

でも、真衣が出ていくと言うなら兄として引き留めたくなるだろぃ。


「なによりブン。先に家を出たのはおまえさんじゃき。」

「!」

「そん時の真衣がどう反応したのか思いだしんしゃい。」


仁王に言われた言葉で頭を殴られたような感覚に陥った。

衝撃的だった。

俺の真衣への愛情はエゴにすぎない、と自分で理解した。





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