泡になったんか?
(侑士視点)
出張から帰宅して一番に出迎えてくれたのは妻の梓やなくて、義弟の金太郎やった。
「梓どないしてん。」
投げかけた問いへの返答はなく、金太郎は無言で近づいてくる。
殺気を感じた。
「どないした?こっちが聞きたいわ!なに考えてんねやドアホ!!道頓堀に沈んで頭冷やせや!」
金太郎がこない真剣に怒ってるんは梓に関してやとすぐにわかった。
奴は姉思いの優しい男やから。
「状況を説明してもらわれへん?」
「見てわかれや。梓が居らん。」
「ちゃうて。なんで梓が居らんねや?」
そう尋ねたがやはり返事はない。
薄暗い家の中でも白いものだけは微かな光を得て、形がわかった。
すぐに金太郎が手で握りしめてる白い紙を奪った。
家の電気をつけて確認した。
「……梓が出ていった理由がわかったんか?」
「このファックスが原因やろ?」
「ちゃうやろドアホ!原因は自分や!」
ファックスにある内容を見て出ていったとして、送信源はどこや?
非通知。
ただの、嫌がらせだと思うけど梓が出ていったんなら、この内容を信じたとしか考えられへん。
「金太郎、俺は梓を裏切るようなことしてへんで?」
「ホンマにか?」
「嘘なんかつくか。梓に関わることで嘘をついたことなんかあらへんやろ?」
印刷された写真に写るんは裸でベッドに横たわる俺の姿。
モノクロでもそんな写真、見たいものではないやろう。
これは完全に偽装されたものやけど、梓は傷ついたやろうな。
「嘘なら早よう梓探さな!」
「……犯人はわかった。きっと梓は犯人に騙されてるはずや。」
「犯人誰なん!?」
「言われへん。金太郎に言うても仕方ないやろ。これは俺らの問題や。」
「ほんなら俺はなにも言わんわ。」
「……梓は犯人のところにいるんかもな。」
「犯人わかってんねやったら梓に説明すればええやん!!」
金太郎はそう言う。
やけど、こういうのって信用問題やし、梓が俺を信じてる――もしくは信じようと思うなら帰ってきてるはず。
「金太郎、俺は梓を信じてるから行かへん。」
「なんやそれ…」
言い訳を聞き入れようと思わない限りはなにを言うても仕方ないと思う。
梓が“侑士がそんなことするわけがない”と言うて信じてくれるまではどうにもならんねん。
「梓は侑士が来るの待ってるかもしれんやん!?」
「……俺を疑った奴が待つ?それやったらなんで信じてくれんかったんや?」
「……」
金太郎はそれからなにも言わなくなり、静かに用意されていた布団に潜り込んでった。
「跡部……」
俺は信じてるんや。
例え、巧妙な罠に梓がハマったとしても俺らの愛は本物やってこと。
そんな格好良いこと言うてるけど、ホンマは不安なんや。
梓がこのまま俺から離れたらどないしたらいいんかわからんし、そんなことになったときの自分の行動も読めへん。
「梓、俺…怖いんや。」
妻を愛してるから信じてるけど、先のことを考えると恐怖でしかないん。
泡になったんか?
跡部なんかに引き裂かれたくない
** END **
#2008.5.1
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