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泡になればいい


あれからどうなったんやろう?

あまり覚えてへんけど、周りを見渡すとかなり高級な雰囲気を醸し出していた。

それのおかげですぐ跡部くんの家やって理解した。


『何してんねや…』


事情や言い訳を本人から聞いたわけではないのに勝手に決めつけて家を飛び出してきた。

手元には財布もなければ携帯もないため、侑士とは連絡の取りようがない。


『…帰るかなー』


侑士に本当のことを問い尋ねようと思って立ち上がるとほぼ同時に部屋の扉が開いた。

そこには跡部くんが居てた。


「落ち着いたか?」

『あ、うん。おおきに。』

「どうせ忍足が浮気でもしたんだろ?」

『…なにか知ってるん?』


そう聞けば彼は少し驚いたように目を見開いた。

結果、当てずっぽだったとわかって自分の迂闊さに凹む。


「…マジで浮気されたのかよ。」

『知らんかったんなら言わへん。』

「浮気が原因だとしたら…あれか?」


なにか考えているようだったから疑問視した。

やはり、彼はなにか知っているのか。


「勤め先の病院に入院してた患者とのやつか?」

『…なに?ほかにもあるん?』

「俺がバラしたことで責任問われるから言えないけどな。」

『問わへんから教えて!?』


侑士の浮気について知る人物がいた。

やはり、あの電話は本当だったんか。


「出張先でな。あまり詳しくは聞いてないが…その患者は遠くから忍足の勤めてた病院に来てたらしい。」

『その人、退院しはったん?』

「退院したから出張先で浮気してんじゃね?」


ふと思い浮かぶ出張先はよく行っていた京都ぐらい。

でももし、彼の発言が事実だとしたらうちらどないしたらいいん?


「……梓、」

『へ、平気や。大丈夫。』

「そういう嘘は笑えるときに言え。そっちのがましだ。」

『ホンマに平気なんやて!』


近づいてきた跡部くんを追い払おうとして言うたけど無駄やった。

彼はなんら気にせず、手を伸ばしてきた。

その腕に抱きしめられたら嫌だと思うと自分は思っていたのに違った。


「なんで我慢してんだよ。泣きたいときは泣け、っておまえなら言うだろうが。」


不安要素ゆえに彼の優しさと温もりと甘い香りが心地よくて、涙した。

すでに夫は愛情深い人間であることを忘れ、侑士を信じることなんか念頭にはなかった。


「夜も更けた。体は休めろ。嫌でも朝は来るんだからよ。」

『……あの、』

「なんなら慰めてやるけど?」

『い、いい、いや。遠慮しておきます!』

「クククッ、冗談だ。」


配偶者と連れ添って、ほんの3週間目に起きた事件に気持ちが廃れていた。

信じてあげられなかったん。


「……悪いが俺はまだおまえを諦めちゃいねぇんだよ、梓。」


二つの歯車が狂うと凹凸が合わなくなり、歯車が弾け飛ぶやろう。

それと同じようにうちらの気持ちがすれ違い始めた。

それは一方的に害を受けたうちが悪いんやと思う。


『ゆ、…し…』


せめての希望。

夢の中の貴方はうちを愛してくれると信じていたことだけやった。

侑士を信じられないなんて――





泡になればいい
妻として最低の行為やったな





** END **
#2008.4.26



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