7>>The greed.
陽奈とメールのやりとりをしていたら大学のテニスサークルの人と試合をする話になった。
せっかくの誘いを断るわけにはいかんくて、俺は陽奈の大学に来た。
『仁王くん!わざわざありがとう。』
「いんや、こっちこそお誘いどーも。」
これは全く成り行きじゃけん。
俺ん試合相手は決まっていたらしいがコートにいたある一人が俺を一方的にライバル視してきよって、試合相手を押し退け、試合を申し込んできた。
相手は小声で負けたなら陽奈を諦める、と呟いた。
「どーよ、立海大レギュラーさん?」
「(なるほど。ペテン師に賭を挑むとは、)」
「どうする?」
「受けてたつきに、」
「そうこなきゃな!」
『に、仁王くん…』
心配そうに眉を下げ、俺に止めるように促す陽奈。
「まぁ見てんしゃい、」
そう伝えてラケットを構えた。
まずはお手並み拝見といったところで4ゲーム様子を見た。
全力を出しているように見せかけて。
「後悔すんなよ銀髪くん?」
「どうじゃろ?」
調子に乗っているところ悪いがその延びた鼻先を折っちゃる。
負けるなんて格好悪いこと出来ん。
なにより真田の鉄拳が怖い。
「レーザービーム!」
あっと言う間にポイントを奪い、最後の一球でとどめを打つ。
「ここらじゃ有名なんよ?仁王雅治、コート上のペテン師。」
「ラブゲームはわざとか…!」
「今更遅いぜよ。」
スマッシュを相手の股の間に打ち込んでゲームセット。
「はぁー…やられたぜ、銀髪くん。」
「どーも。」
「誰だよ、大したことなさそうなんて言いやがったヤツー」
「自分(てめぇ)だろうが、」
「そうだっけか?勝てると思ったんだけどな…でも、負けは負けだ。おまえ強いんだな、」
「好きなことでは負けたくないだけじゃ。」
そう言って自分がテニスを好きだったことに気づいた。
ただ毎日だらだらとテニスをすることしか目的と出来ない人間、なんて思っとった自分が恥ずかしい。
今までテニスに関していい環境にいたことにも気づかず、楽しみがない、なんて。
テニスの楽しみ方を間違っとう気がするが今までに身につけたことをこの場で活かした。
「サークルと部活はまた違うよな。俺らは趣味の域だし。でも、楽しかった、ありがとな?」
「ありがとうございました、先輩。」
「またやろうな?」
「そん時は陽奈を賭けたりはせんよ。賭けたとしても絶対に譲らんし。」
「はは、賭けなしに。銀髪くんとまた試合したいだけだ。」
握手を交わし、汗を腕で拭った。
振り向き見ると俺の勝利を誰よりも喜んでる陽奈がいた。
『格好良かった!』
興奮して目を輝かせてる彼女を見ているとある人物を思い浮かばせた。
ブンの技を見た氷帝のねぼすけじゃ。
尊敬される眼差しを向けられたブンがいつか少しだけ羨ましく感じたことがあったのう。
「俺は無いと勘違いばっかしとったんかねぇ?」
『え?』
持っていた。
テニスの楽しみも腕や技を磨く目的も尊敬の眼差しを向けられることも。
しかし、ないものも確かにあった。
ドキドキや幸せ、人を好きになる気持ち。
たった3つがないだけですべてがないと錯覚しとったみたいじゃ。
恥ずかしいのう。
じゃけ、これは勘違いじゃなか。
「俺、陽奈は持っとらん、」
人間の無い物ねだりの精神は続くらしい。
人間とは欲張りな生きもんじゃ。
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