6>>I'm in love.
メールを見てふと笑いがこぼれた。
『今日は急にごめんね?赤い髪の毛の男の子に驚かれちゃったよ。“仁王に面会!?”ってね。今日はテニスしてるところ見れなかったからちょっと残念だったな〜』
そのメールに続いてもう一件受信した。
それには名前を入れ忘れたことの追記だった。
「(疑わんかった、)」
メールの件名を見ただけでそれが陽奈からのものだと疑いもしなかった。
内容を見ながら表情は綻んでいたじゃろう。
やはり、ブンが言うように俺は三橋陽奈という人間に恋愛しとうらしい。
「あーなんかわかんねぇけど幸せそうっスね、仁王先輩。」
通りすがりに赤也が嫌みを言った。
「のう、赤也。そんなら今までの俺は不幸じゃったん?」
その質問に立ち止まり、俺を見て少し考えて口を開いた。
「死んだ人間の目してましたね。今は水を得た葉っぱみたいっス。」
「それを言うなら“魚”だろぃ!」
「切原くんは死んだ人間を見たことがあるのですか?」
「ま、間違っただけっスよ!」
「ひでぇ間違い、」
「るさいっス!」
赤也と柳生、ブンのやりとりを見ていた俺は三人から携帯からぶら下がる欠片を見た。
俺に足りなかったもの、欠けていたものの正体がわかった。
あの交差点が嫌いな理由が少しわかった気がした。
それからというものの、携帯を触る時間が増えた。
必然と携帯が鳴る回数も増えた。
今までは母親に欠食連絡をするのに電話したり、部活の連絡で携帯が鳴ったり、鳴らしたり。
携帯を常に持ち歩かんでも困らないくらい、使わなかった。
じゃけ、今は携帯を常に持ち歩いとらんと気が済まん。
というのは陽奈と会えない間、繋がるのはこの携帯だけじゃから。
「今なにしとんじゃろ、」
くだらないことでメールしたり、メールしてきたり。
どんな小さな事でも嬉しかった。
「かなり重症じゃ、俺。」
その内、着信音を個別設定するようになったり。
その音楽がなるのを今か今かと待つ自分がいた。
「恋愛って忙しいんじゃな、」
「俺にはわからん。」
「真田も恋愛するといいぜよ?」
「そんなことする暇があるなら自主トレをする。」
この満足感を真田に分けてやろうとしたんが間違いじゃった。
俺の言葉を聞かんかった真田を一瞬哀れんでしもうた。
「のう、ブン。」
「んー?」
「ブンは未だにお菓子が恋人?」
「バカ言え!俺、(高等部)2年んときから付き合ってる女がいんの!」
ずいっと目の前に出してきた携帯のストラップにはリングがぶら下がっていた。
恐らくペアストラップなんじゃろう。
「ほー?ブンに彼女いたっちゅう噂は本当なんか〜」
「(…口滑らせた!)」
俺かて多くの女と付き合うて、やることはやったん。
ブンみたいにペアストラップも付けた(いや、付けさせられた)。
じゃけ、高等部3年になった今、自分から好きになった女が出来た――それが初恋愛。
それさえもブンに先越されたことを知ってちょっとショックじゃった。
「ま、仁王もやっと恋愛に目覚めたんだろぃ?ずいぶん遅かったな?」
「俺より7ヶ月生まれが早いだけで威張りよって生意気じゃ!」
首根っこを抱き、拳で頭をグリグリとねじ込む。
痛いと叫ぶブンを解放して放っておく。
「ひでぇ!」
「生意気さんなブンなんか嫌いじゃ、」
「悪かったって。」
納得いかないまま、ブンは謝ってきた。
しかし、その表情は一変した。
「その女の人をものにできたらダブルデートしようぜぃ?」
頑張れよ、と励まされた気がした。
まさか、ブンにそんなふうに言われるとは思いもせんかった。
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