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5>>A missing thing.



どうやら俺ん欠けとうものを陽奈には埋める力があるらしい。

そうでもなきゃ、こんなにあたたかい気持ちにはなれん。


『邪魔してごめん。練習頑張ってね?』

「あぁ。道中、気をつけんしゃいよ。」

『ありがとう、』


陽奈を見送ると真っ先に俺をからかいに来たんはブンじゃった。

俺ん背中に飛びついて頬を指で触ってくる。


「やめんしゃいよ!」

「なぁに話してたんだよ?」

「なんでもいいじゃろに。」

「彼女?」

「違う、」

「は?違うの?」


予想と違うのが相当意外だったらしく、俺から降りるなり、目を見開いていた。


「じゃあー…友達?」

「たぶんな、」

「たぶん?」

「昨日会ったばっかりなんよ。」

「マジ?それですでにあんないい雰囲気なわけ?」


ブンの言ういい雰囲気とはどんなんかわからんが周りから見た感じの意見なんじゃろう。

悪い気はせんかった。


「綺麗な人だな?」

「大学1年じゃて、」

「へー?」


ブンはそう言ってからしばらくなにも言わんかった。

その間、陽奈の一言(かなり嬉しかった)が頭の中で何度も響いた。


「――仁王ってば!」


何度か声をかけられていたらしく、気づいたときにはブンの口調が荒くなっとった。


「たく!どーせ、さっきの女のことでも考えてたんだろ!?」

「…なんでわかるん?」

「頬に書いてあんの!」

「は?」

「“ただ今恋愛中”ってな!」


なにかわからないが怒りながらコートへ向かうブンに続いて歩いた。

昨日からの傾向じゃから参考にはならんけど、ぼーとしていてハッとすることが多々あった。

思い返せば、陽奈のこと考えとう自分がいた。


「恋愛?俺が?」


今まで恋愛してる自分なんか思いつかんかった。

それが今、まさにその最中と言うのだから。


「そそ!彼女さ?俺に部活の終わる時間聞いてきたんだけど、終わるまで1時間半もあるのに待つ気だったみたいだぜぃ?ふつう、ただの友達に1時間半も待てるか?」


なにか言いたげな顔でニヤリと笑うとブンはラケットを持ってコートに戻った。

彼女ならやりかねないことだ。


部活が終わり、俺は陽奈から受け取ったハンカチを手に、着替えずに自分のロッカー前にたたずんでいた。


「仁王くん、帰らないのですか?」

「……ん?あ、なんじゃて?」


俺の意識が違うところにあったことに対して柳生は言う。


「物思いにふけるのはかまいませんがテニスの練習および試合中、歩行中はやめたまえ。」

「はいはい、」

「全く、君という人は。今日はずいぶん不調でしたから幸村くんの目が光っていましたよ?」


そんなこと言われても、珍しくテニスで集中できんかったん。

やっぱり、陽奈のこと考えとう。

彼女のこと考えると鼓動が速まる。

胸がきゅーと縮む感じがするん。


「(いかんいかん。これは完全に乙女思考じゃ。)」


陽奈から借りたハンカチをズボンのポケットに入れて着替え始めた。

すると携帯が振動した。

ロッカーに当たっていたせいで振動音が辺りに反響していた。


「(登録外アドレス?)」


届いたメールを見ると件名には部活お疲れさま、の文字。

すぐに陽奈だとわかった。




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あきゅろす。
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