3>>A warm feeling.
たった今、出会ったばかりとは思えないくらい俺たちはすぐに打ち解けることができ、仲良くなれた。
『大学1年なの、』
「一つしか違わないようには見えん。」
『私も。初め仁王くんが制服着ててびっくりしたの。』
失礼だよね、と言いながら笑う。
その笑顔を見ながら彼女をなんて呼ぶべきか悩んどった。
一つしか違わないけど年上。
タメ口きいといて今更、さん付けも微妙な気がした。
相手は俺を苗字(しかも君付け)で呼んでいるもんで苗字と名前のどちらで呼ぶか、かなり考える。
『ところで仁王くんは南のほうの人なの?』
「あ、あぁ…中学んときにこっち来てのう。こういう方言のヤツと歩くん恥ずかしいじゃろ?」
苦笑しながらそう言えば、神奈川にいるのに違う土地の人に知り合えて嬉しいと言った。
少し変わった人だと思うた。
『仁王くんはテニスするの?』
「一応レギュラーじゃ。」
『レギュラーに“一応”なんてないでしょ?胸を張ってレギュラーって言えばいいのに、』
テニスをするのは好きでも自分の存在を過小評価しとう俺に気づいたのか、彼女は少しムッとした表情で言った。
そんな彼女を少し羨ましく思うた。
『うちの大学にテニスサークルがあって、みんながテニスしてるのをいつも見てるんだけどみんな上手なの。仁王くんも上手なんだろうね?』
「さぁ。それは見てもらわんと。自分の口から上手いなんて言えんし。」
『見せてくれるの?』
「……見たいん?」
『うん、』
期待を胸に言った言葉は信じられないくらいに素直に返ってきた。
満面の笑みを浮かべている彼女に嘘一つなさそうじゃ。
「なら、それはまた今度。」
『ありがとう。今から楽しみ!』
その言葉が上辺だけだとしてもまた会う理由が出来たことは喜びだった。
割れてしまったが以前に使っていた鏡を買ったというお店へ案内してもらい、いろんな柄の鏡を前にした。
「ところでどんなんが好みなん?」
『んー…シンプルなのが好きかな?仁王くんは何色が好き?』
「俺は青かのう。」
『じゃあ、青色にする。』
「え?」
『なに?』
俺は彼女の好みがわからんから自分で気に入った柄を選ぶように一緒に来てもらったん。
そんな簡単な理由でいいんか?
『これがいいの。』
そう俺を見て言う彼女は本当にその色が良いらしく、俺に手渡した。
『変かな?』
「いや、良いと思うならいいんじゃなか?選んでもらうために来てもらったん。」
そう聞いて安心したのか俺から鏡を奪おうとした。
財布まで出して、自分で買うつもりだったみたいだがそうはいかん。
「俺が買うん、」
『やっぱり悪いよ。』
「プレゼント。それなら受け取ってくれるん?」
贈り物を拒むほど彼女は謙遜(悪い意味で)ではないらしい。
受け取ってくれる約束をしてから俺はレジに向かった。
「(たかが800円、)」
そう思うて千円札を出した。
じゃけ、彼女が喜んでくれると思えばその800円は価値が高い。
俺はそう考え直した。
『ありがとう、仁王くん。』
「どういたしまして、」
喜んでくれるなら価値は高い。
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