10>>It's filled up.
食事を終えた後、陽奈とゲームセンターに行った。
そこで取った大きなクマのヌイグルミを片手に持ち、あの交差点に来た。
今ん俺は暖かい気持ちに満ちていて前みたいな寂しい気持ちはなかった。
「のう、陽奈…ありがとうな。」
『いきなりどうしたの?』
「俺な?ここの交差点嫌いだったんよ。」
『人が多いから?』
「目的を持っとったり、幸せそうな人間が多くてな。俺は目的もない、つまらなん、平凡な人間じゃった。じゃけ、みんなに紛れてこの場にいると自分が情けなく思えて辛かった。」
陽奈に出会って、何週間も経っていないのにこの短い間でたくさんのことに気づけたん。
テニスが好きなこと、仲間と環境に恵まれていたこと、人を好きになる気持ち。
「もし、この交差点で陽奈に会わんかったら、俺は今も平凡に生きとったじゃろうな。」
『仁王くん…』
「空っぽだと思いこんでた。でも、半分くらいは貯めてあったようじゃな。でも、陽奈に会って、優しさを感じて、満タンになったぜよ。」
そう、彼女に言えば嬉しそうに微笑んでいた。
俺は携帯を取り出し、ストラップとして付けていたプラスチックの破片を取り出した。
『それ…』
すべての始まりである鏡の破片を見るたびに今の自分が優しさに包まれ、幸せであることを思い出す。
それを見て陽奈を思えば、気持ちが暖かくなったん。
だから――
「陽奈にお礼が言いたい。」
『私はなにも…』
「言うたじゃろ?陽奈に会えたから、俺はこの交差点に堂々と立てるん。」
『本当に私が仁王くんを満タンにしてあげられたって言うの?』
「そうなんじゃけど、ほぼ満タン。」
さっき満タンになった、と言っといて肝心なことを忘れとった。
「現時点で99パーセントじゃけ、」
『どうすれば100パーセントになるの?』
俺と陽奈の関係を試すため、歩行者用信号が青になるのを見計らって俺は言い、行動した。
「俺が陽奈に対してそうであるように陽奈も俺を好いとうてくれたならな?」
人の波に紛れ、歩きだすと彼女は――
『仁王くん…!』
必死になって俺ん腕を掴むとまだなにも答えてない、と言い、引き留めた。
賭けに出た俺ん勝ちじゃ。
俺をどうでもよく思うとったら人の波に紛れていくのをただ眺めていただろう。
『私、…私、仁王くんが――』
「十分じゃよ。」
『…え?』
「陽奈ん気持ち、しかと見た。」
その気持ちはまた静かなところで聞かせてもらいたいと言えば、瞬きと同時に焦りから優しい表情へと変わった。
少し間を置いてから陽奈は口を開いた。
『……100パーセントになった?』
「いんや。それどころか溢れたな、」
『じゃあ、数字で言えば120パーセント?』
そんなことを言った彼女を抱きしめるべく、片手に持っていた袋に入っているヌイグルミを手放した。
「ありがとうな、陽奈。」
抱きしめられたまま、陽奈は静かに笑った。
この交差点にお礼言わんきゃならんな。
「俺、たった今、満タンなったぜよ。」
Fill it up!
幸せをくれたこの交差点と君に言葉では言い切れないけどありがとうを言いたい
** END **
#2008.2.11
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