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奇跡的目覚め



真っ白の壁、真っ白いシーツ。

それに似合わない痛々しい傷やあざを残して横たわる俺。


『亮…おいてかないで…』


明良に手を強く握られて、俺は夢から覚める。

しかし、身体が動かない。

まるで凍り付いたみたい。


『愛し…てるの、亮。私、あなたがいないと……』


兄貴の代わりに――いや、兄貴の分まで俺は生きていかねばいけない。

明良のためにも。

浩亮のためにも死ぬわけにはいかない。


「………く…な、」


まだ死ねない。

強く願ったとき、俺は目覚めた。

その目は明良を見据えていた。


「…んなに、泣く…な、よ…」

『り、亮っ!!』


俺の目覚めを喜び、明良は俺を抱きしめ、泣いて喜んだ。

左手は完全に痛めていたため、片腕だけで彼女を抱きしめた。

明良の涙が俺の枕を濡らした。


『りょ…う…よかっ、た…よかった!』


明良の声を聞いて浩亮が病室に入ってきた。

俺を見るなり駆け寄ってきて俺の手を握った。


「りょー!」

「はよ、浩亮。」

「おッス!」


涙を手で拭い、鼻をすすり、笑った。

そんな浩亮を愛しく思った俺は頭を撫でてやった。

ベッドの縁まで忍足と跡部が寄ってきた。


「10時間。よく寝てたな?」

「俺様はてっきり逝っちまったかと思ったぜ、」


そう冗談で言う跡部に俺は言う。


「まだ死ねないって…思ったんだよ、」


俺の言葉を聞いた忍足は笑った。

そして浩亮を抱き上げた。


「宍戸、浩亮は俺が預かるわ。やからゆっくり休み?」

「あぁ、サンキュー。」

「ほんなら跡部。宍戸も奇跡的に意識取り戻したし、とりあえず引き上げようか?」

「そうだな。」


跡部たちはまた明日来る、と言い残して病室を後にした。

ところで明良はどうしているかというと、未だ俺に抱きついたままだった。


「……明良?」


なにも言わず、反応もない。

不安になり、俺は静かに口を開いた。


「まだ泣いてんのか?」


心配かけてごめんの一言でも言うべきか?

そう思ったときだ。


『……手は尽くしました。後は本人次第です。意識が戻らない可能性は高いので覚悟しておいてください。』

「医者に言われたのか?」

『もう、亮に会えないのかと思うと怖かった。』

「ごめん、」


でも、これが浩亮だったらおまえもっと泣くだろ?なんて言えなかった。

兄貴との子供――明良にしたらかけがえのない宝物だから守ってやりたかった。

俺自身、自分の命より浩亮が大切に思っていたのもある。


『もう、笑えないかもって思った。亮がいなくなったら私きっと……』

「兄貴と同じように後を追ってた?」


笑いながら言うと明良は俺から離れて俺を見た。

涙を流したまま。


『そうだよ!私、また大切な人を失うところだったのよ?あんな思いは二度としたくない!』

「…明良…」


夜、9時。

病院は消灯時間になり、部屋の明かりが強制的に消された。

窓から差す月明かりだけが頼りだった。

それにも動じず、明良は静かに俺に言った。


『愛してるの、』


俺は優しい光に照らされた彼女がますます切なく見えた。





あきゅろす。
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