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さよならも言わず



喜んでいる浩亮。

興奮してか、駆けだしていった。

そのとき、トラックが近づいていた。


「おい、浩亮が!」


跡部がすぐに浩亮に手を伸ばして助けようと走る。

俺は跡部を退かして走った。


「浩亮ー!!」


浩亮を抱き上げ、忍足たちに投げたはいいが受け取ってくれたかはわからない。


「宍戸ー!!」

「りょー!!」


頭によぎるのは“子供を助けた”後の兄貴の姿と明良の泣き叫ぶ姿。

一瞬で二つのことが見えた。


――キィィィィィ!!


脳天を突き抜けるような、耳が痛いくらいに聞こえたのはブレーキ音ひとつ。

あの後、意識不明の重体で病院に運び込まれた。

どうやら俺はトラックにはねられたらしい。

兄弟揃って交通事故死とは皮肉なものだ。


『亮…やだよ…』

「…ママ、」

「浩亮、外で待ってようか?」

「……うん、」


俺は夢を見ていた。

濃い暗闇の中にいる夢だ。


「亮、おまえ…俺との約束覚えてるか?」


頭や腕に包帯を巻く兄貴が俺に言う。

事故の後の姿をした兄貴が俺に悲痛な声で言う。


「覚えてるけど……俺、もうダメらしいぜ?」


そう自分の身を案じて返事すると兄貴は俺の背後を指さした。

振り向き見ると明良が泣いていた。

浩亮は自分のせいだと泣きながら明良に謝っていた。


「もう少し頑張ってくれよ。明良はおまえだから任せたんだぜ?」

「でも兄貴。どんなに願ってもダメなときはあんだろ?」

「……おまえが明良と浩亮を思う気持ちはそんなもんだったのか。」


貶(けな)された。

でも、真実を述べたまでだ。


「亮、おまえはこれからも明良と浩亮を支えてくれるだろ?」


少し離れたところに兄貴がいて、反対側の離れたところには明良がいる。

俺は自分の思うところを見ていた。


「根性見せろよ、亮。おまえはまだ明良には必要だ。」

「(バカ兄貴。兄貴だって必要とされてたくせに、)」

「……明良の今の笑顔は俺が作ったんじゃない。」


寂しそうに兄貴が笑う。


「亮。あれはおまえと明良が生み出したものだ。今の明良に必要なのは俺じゃない。おまえだ。」

「……」

『…亮?』


明良が俺の名前を呼ぶ。

それに振り返る俺がいた。





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