たからもの
明良が元気を取り戻したのは子供を産んだ後ぐらいだろうか?
彼女はようやく笑うようになった。
『亮のおかげだよ。迷惑かけてるのにそばにずっといてくれてありがとう。』
彼女をそばで支えてやるのが兄貴の望んだことだった。
それに俺は単純に明良が好きだったからそばにいられて幸せだった。
「感謝されるまでもねぇよ。」
俺は家を出て、明良と住んでいるわけで身の回りの世話をしてもらってる立場。
明良にしたら兄貴に費やしていた時間がなくなるのは寂しいとのことだったし、悪いと思いながらも同居させてもらってる。
部屋は兄貴の息子である浩亮と一緒。
浩亮にしたら俺は良い父親代わりだろう。
『浩亮、パパにご挨拶してきなさい?それから亮を呼んできて?』
「はーい!パパー!!」
欲しいと願っていた子供を見ることなく兄貴は死んだ。
パパって呼ばれたかったろうな。
「りょー?」
「あ?」
「ごはんだってよー?」
「あ、あぁ。」
浩亮が俺をパパと呼ぶことはなかったけど、それでいいと思う。
本当のパパ(兄貴)を忘れない気持ちを持ってる証拠だから。
「どうかしたの?」
「いや…なんか体が痛くて。」
「まさか、運動不足?」
「かもな、」
心配そうに顔をのぞき込む浩亮の頭を撫で回して二人で明良の元へ行った。
「ママー?りょうをつれてきた〜!」
『じゃあ、ご飯にしようか?』
「やた!いただきます!!」
浩亮が飯を頬張る中、俺は明良をジッと見つめていた。
『どうしたの?』
「あ、いや。なんでもない。」
今は幸せな家族の形となってる。
明良と浩亮の三人で一緒に時間を過ごせることが嬉しい。
あ…四人掛けテーブルの一つは兄貴の席で生前に使っていた茶碗や箸を並べてあるから若干四人か?
「今日の予定は?」
『公園に行くんじゃなかった?浩亮とテニスしてくれるんでしょ?』
「あ、そうだったな?」
いつの間にか食事を終え、食器を片づけていた浩亮はラケットを持って玄関にいた。
「亮!早く早く!!」
『いいよ亮。片づけとくから。』
「悪いな。じゃあ行ってくる。」
俺は浩亮を連れて通い慣れた公園に向かう。
その時に跡部と忍足にあった。
「あ、おしたりおじちゃん!」
「おじちゃんはキツいわ、浩亮。」
「それにあとべおじ「あん?」
「…にいちゃん。」
「おい、跡部〜浩亮に変な教育すんなよ。浩亮、あんなヤツはオヤジでいいんだよ。」
「浩亮、気にすんな。」
「う、うん。」
俺たちを見守って、浩亮を大切にしてくれる仲間がいて幸せだ。
しかし――兄貴がいたらどんなに幸せか考えると切なくなった。
「それよりあとべにいちゃん?つぎあったとき、テニスおしえてくれるってやくそくしたじゃん?」
「あぁ、そうだったな。宍戸、ラケットよけせ。」
「はいよ、」
ラケットを受け取りコートに歩きだした跡部の後ろをチョロチョロと歩き回る浩亮。
それを見て忍足が静かに口を開いた。
「明良の調子はどうや?」
「まぁまぁかな?」
「さよか。浩太郎さん亡くなってから最近は笑うようになったから俺らも安心してるんや。……ま、誰かのおかげやろうけどな?」
「?」
「お、宍戸の可愛い息子分がズタズタになってるで?」
「ん?あー!跡部!」
見れば汗をかき、グタグタになった浩亮が跡部に腕を引かれて帰ってきた。
「少しは手加減してやれよ!」
「バカいえ。んなことしたら浩亮が思い上がるだろ。」
「まぁまぁ、まだ浩亮は子供なんやし。」
「あとべにいちゃんってば“はぁめつへのローンド!”っていってスマッシュうってきたんだけど、こわいの!おれのコマンドには“にげる”しかなかった。」
「身で受けるってのはなかったのか?」
「ない!こわいんだもん!」
満足したのか、浩亮はラケットをベンチに置いた。
それを見た忍足はかき氷を奢ると言ってくれた。
浩亮を我が子のように可愛がる忍足に俺は甘すぎると内心呟いた。
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