死別の苦しみ
俺の目の前には傷だらけで包帯に包まれた兄貴、浩太郎。
死に際、俺に視線を向けると声なんか出るはずがないのに力一杯振り絞って声を出した。
「りょ……明良を、頼む……」
俺が力強く頷くと兄貴は安心したのか全身の力が抜け、苦しんだ証である涙を一筋流した。
深い眠りに就いた兄貴に聞こえやしねぇがバカ、と一言言った。
俺を最後に見た兄貴は病院のベッドの上で息を引き取ったのだ。
『浩太郎…?ねぇ、浩太郎?私、まだ言いたいことあるの!聞いてよ浩太郎ー!!』
二人が結婚したのは明良が20歳、兄貴が24歳の時で彼女の腹には子供がいた。
妊娠報告をする予定だった、その日に兄貴は交通事故で帰らぬ人となった。
道路に転げていったボールを追いかけて行く子供には車が迫り、その子供を助けようとしての事故。
子供は軽傷を負ったが無事だったらしい。
『浩太郎ー!!放してぇぇ!放してよ亮ー!!』
「そんなことして兄貴が喜ぶと思うのか!!バカなことしてんじゃねーよ!!」
浩太郎の後を追う、と言って病院の屋上から身を投じようとした明良。
俺は彼女を引き留めることに必死だった。
『浩太郎…うわぁぁぁぁ!!』
泣き叫ぶ明良。
その姿を見ていた俺はなにもできなくて、自分の無力さを痛感した。
大切な人を亡くした苦しみは痛いほどわかるが、愛する人を亡くした痛みはわからなくて辛かった。
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