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大丈夫という嘘


明良は大丈夫だと俺に笑って言ったが、その笑顔は限りなく頼りなかった。

その表情に不安を覚えた。


「明良、俺はお前の涙が渇くまでそばにいてやるつもりだ。迷惑かけたくないなんてふざけたこと言うなよ?」

『景吾…』

「俺にすれば明良は大切な馴染みある奴。浩亮は息子同然だ。」

『……私、恵まれてるね。』

「当たり前だ。」


子供をあやすように抱き寄せて優しく頭を撫でた。

明良がどれだけ心に深い傷を負ったか、俺にはわからなくて…ただ、そばにいるしか出来ないことが悔しかった。


「今日はもう寝ろ。」

『…うん、』

「寝るまでそばにいてやるから。」

『ありがとう。』

「なんだったら一緒に寝てやるぜ?」


冗談を軽くかわせるだけ明良に力がないことを忘れていた俺はあとでハッと気づき、少し後悔した。

なにも言えずにいた明良を一度だけ見やってすぐに笑ってごまかした。


「悪い冗談だ、」


そう言って踵を翻したとき、僅かに服が引っ掛かったような、突っ張ったような感じがした。

振り返り見れば、明良の手は俺の服へと伸びていた。


「…明良、」

『一緒に…寝てくれるの?』

「浩亮が驚かないならな。」


明良の額に額を合わせて笑った俺に吊られて、ぎこちなくても笑った明良に少し安心した。


「あれからろくに眠れてねぇんだからゆっくり休めよ。」


明良を布団の中に押し込めるとパジャマに着替えると言って布団から抜け出た明良の腕を掴んだ。


「パジャマじゃないとダメなのか?」

『…そんなことないけど。』

「今用意させる。」


そんなに時間をかける事なく、明良が支度を終え、自分も支度を整えた。

布団に再び入れたとき、明良が口を開いた。


『景吾…』

「あーん?」

『ありがとう。』


本来、明良を潤さなくてはいけないのに逆に俺がなぜか潤った。

胸に染みて行く温かさを感じた。

いつか本当の笑顔を見せてほしいと願った。


「明良…?」

『なに?』

「おまえは一人じゃねー」

『…景吾も浩亮もいるもんね。』

「何度泣いてもいい。だが、一人では泣くな。」

『わかってます。』


明良が大丈夫と言う度、俺は不安に思う。

明良が感情を閉じ込め、押し潰されそうな気がして……


「それともう一つ。」

『なに?』

「大丈夫なんて言うな。俺がどうかしそうだ。」


すべてを抱え込む姿を見ていられない。

俺が辛い。


『け、いご…?』

「わ、るい。」


明良はこんなに強く生きようと決意したのに。

俺は――…


『なんで泣いてるの?』


支えなくてはいけない立場なのに涙が溢れた。


『…疲れてるのは景吾の方なんじゃない?泣きたいなら泣いていいよ。』

「明良……本当は俺!」

『うん…』

「明良を支えてやれるほど強い人間じゃない!」

『うん、』

「宍戸との約束…守れるか本当は不安だった。明良を支えられるか、怖くて…怖くて――…」


いつの間にか俺が潤う立場にいた。

明良はこんなに強くあるのに情けない。


「明良ー!」

『景吾も辛かったよね…なのにありがとう。』


この夜、二人で泣いた。

宍戸が生きていたら「激ダサ」って笑ってくれるだろうに。

“大丈夫”と冗談でも言えなかったのは俺の方だったようだ。





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