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友情ゆえに誓う



宍戸の体が病に冒されているなんて知らなかった。

昔から宍戸を見ていたのになにも気づけなかった自分に苛立った。

しかし、それ以上に――


「明良には最後まで言わないつもりだ。」


宍戸が妻に明かさないことに苛立った。

明良に知らせなければ、明良なりに悩むはず。

なにもしてやれない悔しさゆえに自己嫌悪に陥るかもしれない。

それと理解しながら宍戸は明良に伝えようとはしなかった。


「俺さ、明良になにも残してやれるものがねぇんだ。浩亮のために使える金も少ししかねぇし。まさか、こんなことになるとは思わなかったから。」


悩んでる暇はない。

しかし、今も病が宍戸の体を蝕んでいると思うと焦って考えがまとまらなかった。


「浩亮が道路に飛び出して、俺が事故った日さ。嫌な予感はしてたんだ。骨が痛んでよ?」


聞きたくない。

死が近づいていることを覚悟していると言うおまえの言葉なんか聞きたくない。


「手遅れだってんだから笑えるよな。」


力なく笑った宍戸の表情はすぐに曇り、一粒、また一粒と雨が降り始めた。

次第にそれは激しくなっていった。


「死にたくねえ…死にたくねえよ!明良と浩亮を残して死ねねえよっ!!」


声を殺して泣く宍戸を見て、俺は決心するしか術がなかった。

俺が宍戸と明良と浩亮を支えてやる以外に良い方法はなかった。

俺は一つ、提案した。


「宍戸。おまえを俺が雇うという口実でうちの敷地内にある職員(使用人)住宅に引っ越してくるなら、目が行き届く。例えおまえがくたばっても、明良と浩亮の世話が出来る。」

「……悪い、な。」


今後のこととして、俺は気がかりだった一つの点を宍戸に尋ねた。

案の定、病について知るのは俺だけらしい。


「悔しい。明良を幸せにしてやれねぇこと、浩亮の成長を見届けてやれねぇこと。」


宍戸、そんな顔するな。

おまえはしぶとく生き続けてやる、ぐらいの勢いがあるヤツだろ?

言葉に困っているとき、買い物から明良と浩亮が帰った。


『ただいまー』

「ただいまー!」


宍戸は涙を拭い、笑顔で二人を迎えた。

その様子を見てさらに悟ったのは本当に明良に伝えるつもりがないこと。


『あ。景吾、来てたんだ。なによ亮、お茶も出さないで〜!』

「気にすんな。ちょっと仕事の話で寄っただけだ。」

『仕事?』

「うちの参稼で働かねえかって話。」

『なんの仕事?』

「警備だ。監視カメラの映像を処理してくれりゃあいい。考えとけよ宍戸。明日までに連絡よこせ。手配する。」

「ああ、」


明良は俺の話に裏があることなど気づきもしなかったろう。

宍戸が明良に言うつもりがない以上、俺が明良に言うわけにはいかない。

宍戸が真剣な以上、俺は真剣に約束を守ることを誓わなくてはいけない。


「また来る。じゃあな、浩亮。」

「おう!」

『気をつけてね。』


なにも知らず、あどけない表情を向ける浩亮と笑顔で見送ってくれた明良。

二人がもしも、の後にあんな表情をすることがあるのか。

ただ怖い。





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