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最期の願い

(跡部視点)


仕事に忙しく勤しんでいた俺が突然、電話で呼び出されて来た先は宍戸の家だった。


「悪いな、」


呼び鈴を押すと間もなく出迎えてくれた宍戸はどことなく気疲れしているように見えた。

仕事を放り出してきたわけだから手短に、と言いたかったが大切な話だっていうじゃねぇか。

仕事に関しては諦めモードに入っていた。


「明良と浩亮は?」

「買い物に行った。」


なるほど、二人で話したいほど重大な話というわけか。

しかし、俺が予想していた“重大な話”とは大幅に違ったのだ。


「は?」

「……」

「…ふ、ふざけんな!!明良が今、どんなに幸せかわかってんのか!?」

「……」

「なにか言え宍戸!!」


聞いた話に激怒して宍戸の襟刳りを掴んで宍戸を立たせた。

それでハッと気づく。

宍戸が誰より辛いこと、宍戸が一番理解していること、顔を歪ませて涙していることに。


「……おまえは俺にどうして欲しい?」


宍戸が俺に一番はじめに打ち明けたことには大きな理由があると思った。

宍戸から手を放し、背を向けた。

こんな顔を宍戸に見せるわけにいかない。否、俺がこんな顔をしてはいけないんだ。


「明良を…」

「その頼みは聞けねぇ。」

「跡部ぐらいにしか頼めねぇんだ。」

「浩亮さんと宍戸の代役を俺が務められるかよ。」


俺は自信がなかった。

幼なじみとして幼い頃から宍戸や明良と付き合ってきたから、あいつらが苦しむ姿を見て尚、冷静でいられる自信がなかった。

滅多に口にはしないがそれだけ俺にしたら宍戸亮と宍戸明良は大切な友人なのだ。


「明良が立ち直るまででいい。」

「宍戸、俺はおまえらの為なら金を使うことを惜しまない。だがな、神経が削れるような思いはしたくない。」

「……ありがとな。」


こんな緊急事態だというのに俺が宍戸と明良に対する友情を感じて喜ぶ宍戸はバカだと思った。

だが、宍戸の笑顔を見るとそんな考えはどうでもよく思えた。


「やっと幸せになれたのにな。明良は死別の悲しみから立ち直り、宍戸は長年の思いが伝わり、」

「るせーな。」

「なんで宍戸が……」


代われるなら代わってやりたいと思う。

そんな現実離れしたことを考えても仕方がないとはわかっているが、二人の今に至るまでの経緯を知る故か強く思い、願った。


「跡部、俺の代わりに明良と浩亮を幸せにしてやってくれな。」

「だから、俺に宍戸の代わりが出来るわけねぇって!」


信じたくはなかった。

しかし、握りしめてくしゃくしゃにしてしまったが、俺の手中には確かな証拠があった。

目を背けられない事実、宍戸の体を刻々と蝕んでいる原因が書かれた医師からの診断書がある。


「跡部、…信じてるから。」


これが宍戸亮の人生最期、俺に頼んだことだった。





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