彼女は同じ顔した人間の死を二度も見たくないと言ったわけではない。
俺、宍戸亮の死を見たくないと言ったのだ。
「明良、でも…兄貴が…」
兄貴が力無く笑う姿を思い浮かべると素直に喜べなかった。
でも次の言葉に安心した。
『浩太郎を忘れてはないよ。もちろん愛してる。だけどね?私、欲張りなの。』
力無く笑うと涙を拭っていた。
次に言った言葉は声が震えていた。
『亮も愛してるの、』
「浩亮のために自分を偽ってんじゃねぇの?」
首を数回横に振ると明良は笑って言った。
正直言うと嬉しかった。
『亮を愛する資格はなくても、愛してしまったの。亮が同情で隣にいてくれたとしても私は嬉しい、』
彼女の言葉に偽りはないと伝わってきた。
「明良は人は同情だけでそばにいてやれるもんだと思ってんのか?」
そう言った言葉に明良は口元を押さえて、また涙した。
泣き虫だな、と笑いながら俺は続けた。
「愛してるからに決まってんだろうが、」
『亮を思ってること、ずっと言えなかったの。でも、亮が事故に巻き込まれたって聞いて…言っておけばよかったと後悔した。』
「なら今はスッキリしたのか?」
『…うん。』
嬉しそうに笑うその笑顔は月明かりに照らされてるせいか、一段と綺麗に見えた。
「早く元気にならねぇと、」
『……あ、』
「なんだよ?」
『お医者さん呼ぶの忘れてた、』
急に恥ずかしくなったのか、思い出したように明良は言い、ナースコールを押す。
そんな姿を見て口元がゆるむ。
「明良?」
『ん?』
「さっきのプロポーズ?」
『!』
真っ赤になったのは見なくてもわかる。
言葉をどもらせていたからだ。
「じゃ、明良にはもう一回ウェディングドレス着てもらうかなー?」
『ッ、亮!恥ずかしいからその話はやめようよ!』
もうこの世にはいないけど、永遠のライバルである兄貴もいる。
パパの座は譲ってはもらえないだろう。
でも、夫の座は危ういぜ?
「(兄貴、悪いけど俺…負けないからな?)」
自分のために泣いてくれる人がいて、愛してくれる人がいて、錆びない縁で繋がれてる友もいる。
『浩亮、一人で平気かな?』
明良がいて、浩亮がいて俺は最高に幸せだった。
「(兄貴?俺らは兄貴がいるから繋がってるんだと思う。サンキューな?)」
兄貴が天国にいるなんて湿気た考え方はしないが、窓から見える空を見て感謝した。
潤いの言葉
〜I miss you〜
決してあなたを
失いたくはない
人を潤すことができるのは愛の言葉でした。
** END **
#2008.1.28