旅立ち
親父の言葉を聞き、ジローが真っ先に飛んできた。
「やったじゃーん!!」
「俺たち頑張ったかいがあったぜ!」
「ホンマやでぇ、」
『芥川くん、忍足くん…に亮くん!?』
明良が宍戸の存在に気付くと宍戸は忍足の背中に隠れた。
確かに妙な光景ではあるな。
「明良さん、そんなに見んなよ(汗)」
『なんで!?』
「俺の身代わりを宍戸がしてくれなきゃ明良には会えなかった。」
『…それで呼び出されたわけね、』
「だってよ?見てるこっちがイライラすんだっつの!明良さん、跡部しか見えてないのに跡部の気持ち断るんだもんな。」
『それは…』
言葉を詰まらせた明良を見て、俺が口を開く。
「まぁ、一件落着なんじゃねぇの?」
持っていた携帯を宍戸に渡し、宍戸が俺に携帯を返した。
“ありがとよ?”
そう宍戸たちに礼を言おうとした時だ。
搭乗のアナウンスがかかった。
「――ご搭乗くださいませ、」
俺はタイミングを失った。
改めて言うのも恥ずかしいからまたの機会にしようと思い定めた。
(きっと言えねぇだろうけど。)
「……明良、行くぞ。」
明良の手を引いて歩き始めたときだ。
明良の足が止まり、その反動が腕から伝わった。
「どうした?」
『……私は行かないよ、』
「な、冗談『本気だよ。』
「なんで…ついてきてくれねぇのか?」
『良い経験だよ、アメリカに留学だなんてさ?』
「明良も一緒じゃなきゃ…」
『バカ、ガキじゃないんだから!』
俺の背をグッと押した明良。
『“跡部景吾”が日本で満足してちゃダメだよ!その足手まといにはなりたくないの!』
「足手まといになるかよ、」
『なるかもしれないじゃない?』
「そこまで言うってことは……ついてくる気はないんだな?」
『ごめん、』
困った表情をしている明良を見て、腹をくくった。
「そうだよな?家族も友人も仕事も捨てて、アメリカなんか行けねぇよな?」
荷物を持って俺は明良に背を向けた。
すると細々した声が聞こえた。
『仕事なんか…どうでもいいよ。景吾のためなら辞められること知ってるでしょ?』
「知っ、てるけどな…?」
『景吾は帰国する日を待てないかもしれないけど、私は景吾が本当に好きだから待ってられるよ。』
そう聞いて俺は安心した。
だが、明良は瞳に涙を浮かべて俯いた。
『私だけじゃなくて…世界中の女性たちと出会ってもっと良い恋してほしいの、』
なんてこと言いやがるんだコイツ。
「いいか!?俺は――」
明良の顔を上げさせて、彼女の涙を見てふと笑いが漏れた。
「証明してやるよ。世界のどんな女より、明良を愛していることを。」
『け、ご…』
「そして、どんな女より明良が俺にふさわしいことを実感してくる。」
そう言えば、明良は涙を手で拭い、笑った。
『バカ!早く行きなさい?飛行機乗り遅れるでしょ!』
“明良は大丈夫だ”と感じた俺は彼女の額にキスをし、搭乗口へ向かう。
「いってきます。」
『いってらっしゃい――』
再会を夢見て、俺は日本を発った。
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