小さな背中 一方、空港では大騒ぎになっていた。 「景吾はどこへ行ったんだ!」 「携帯がここにあるんですから…GPSも使えませんし。」 「チッ、」 宍戸が携帯を交換したのはこのためだった。 「意外と気付かねぇから笑えたC。」 「ホンマやな?」 「…なぁ?アイツら二人で来ると思うか?」 「せやな、まぁ…跡部やから無理矢理とか?」 遠くから三人の姿が目に留まった。 意外にも暢気に笑いあっていた。 「でも俺らの計画した作戦A成功じゃんね?―――あ!跡部だC!!」 ジローのバカデカい声で親父たちは一斉に俺を見た。 すごい剣幕で睨みつける親父なんか、もう怖くない。 『け、景吾…』 「大丈夫だ。」 グッと明良の手を握りしめると明良も握り返してきた。 俺たちの繋がる手を見て親父が近づいてくる。 「どういうことだ、景吾。」 「この通りだ、」 「またその女か。」 『……』 「親父、俺はアメリカに行く。だが明良に関して口出しをしないならの話だ。」 「なにを言っている。」 「明良とのことで口出しをするならアメリカには行かない。反対されても今すぐ結婚する。これは脅しじゃねぇ、本気だ。」 そう言ったとき、明良が俺の左手を両手で握ってくれた。 震えていたのだ。 また叩かれる、とか明良に危害を加えるとか、頭の隅で考えてたからだ。 「……景吾、本当に彼女を愛しているのか?」 「もちろんだ。」 真剣なことが伝わったのは親父の表情が和らいだ。 「………明良先生、いや…明良さん。」 『あ、はい。』 「女性である君に手を上げたこと、申し訳なく思っている。私もどうかしていた。」 親父は俺を一心に見て、口を開いた。 「跡部の道から反れることを許せなかった。だが…反れていたのは私の方だったのかもしれないな。」 「あなた…」 「跡部家は代々、恋愛結婚だ。それは私もだ。」 親父は母さんを見てそう言い、撤収だと皆に告げる。 「親父…」 「好きにしなさい。おまえももう18歳、善悪の見分け方くらい知っているはずだ。」 そう言われ、俺たちに背を向けた親父の背中が初めて小さく見えた。 そしてなにより寂しそうだった。 → |