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 残された時間


自由になれた気がした。

俺の周りには監視役のヤツらが一人もいないわけだし、親父もいない。

辛かった、嬉しかった、どちらかわからない涙が一筋流れた。


このまま、跡部景吾が父親の敷いた運命という名のレールの上を歩くなんて間違ってると友人三人は言う。

自由に生きればいいとは言わなかったが、自由に恋愛はするべきだと言う。

愛した女に最後まで尽くすべきだ、と俺の背を押してくれた。


宍戸、忍足、ジロー…


ありがとな。




















“あの公園”とは俺が明良と仮という形であっても、恋人として初めてキスをした公園だ。


「なにがオススメだ、バカめ。思い出に浸るにはもってこいだ、とでも言いてぇのかよ。」


一人皮肉を言う俺。

被り続けていたキャップ帽を脱ごうとつばに手をかけたときだ。


『亮くん、待たせちゃった?話ってなに?』


聞き違えたりするもんか。

あれは確かに明良の声。


『亮くん?』

「……明良、」

『あ、あれっ?…け、跡部くん?』


わざわざ言い直す理由がよくわからなかった。

二人きりなのだからいつも通り“景吾”と呼ばれたかった。


「なんでここにいんだよ?」

『昨日、亮くんにここで待ち合わせって言われて…跡部くんこそ、なんでここに?今日、渡米するんじゃ。』

「自由時間だ、」


宍戸がオススメ場所にここを選んだ理由が何となくわかった。

明良に会わせるためだったのか。


「(余計なことしやがって、)」


そうふと笑いが漏れた。

俺は帽子を脱ぎ、その辺のベンチに鞄と一緒に置いた。


『跡部くん?』

「その呼び方やめねぇか?今は二人きりなんだぜ?」

『じゃあ、……景吾。』

「そっちの方がずっといい、」


明良の表情を見れば少し困っていた。


『その頬――』

「なんでもねぇ」


会話にならない。

心配してくれていたみたいだが、明良に負担をかけたくなかった。

明良の名前を口にする度、俺は殴られたからだ。


『も、景吾には会えないと思ったよ。』

「……なんでだ?」

『だって、私たち……』


その先の言葉は聞きたくなかった。

俺は未だに別れてしまった、なんて認めていない。


「なぁ、明良?時間あるか?」

『え?うん、自宅謹慎中だから仕事ないし(笑)』

「なら付き合えよ、」

『なにに?』

「フライトまでの自由時間。」

『なに?それは最後のデート?』


なんて明良が言うから、目が熱くなった。

明良はもう俺を愛していないのだろうか?なんて意味もなく悶々と考えた。


『フライトまでならいいよ?』

「フライトまで、か。」


まるでさっさと渡米しろ、と言われているような気がしてならなかった。





あきゅろす。
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