脱走
当日、俺は親父と母さんに連れられて飛行場に来た。
案の定、隙がないくらいにガードされていた。
「母さん、トイレに行く。」
「わかったわ、」
指示されたとおりトイレに向かおうとすると二人ガードに入り口付近までついてきた。
洋式の個室の扉を開けるとジローと誰かがいた。
「早く跡部、服脱いで宍戸と交換!」
「……なんだ宍戸。その格好は、」
「ほら、宍戸と跡部って背格好似てんじゃん?だから♪」
服を交換しながら宍戸をまじまじ見る。
すると顔を赤らめながらそっぽ向いた。
「身長も同じくらいだしな?忍足が髪の毛はズラで、カラコン入れて、服を交換して、座って頬杖ついて、手で口元隠してればあまり気にならないっていいやがって。」
宍戸は俺に似た様をしていた。
髪型、髪色、瞳の色…似せられるところ全てだ。
「でさでさ?トイレ出る前におばさんに電話しろよ跡部?」
「あん?」
「見送りに俺たちが来たから別ロビーにある喫茶店に行くって口実作んの♪」
「わかった、」
俺は宍戸と服を交換し終わり、言われたとおり母さんに電話をかけて事情を説明した。
それから、携帯を宍戸のと交換した。
そしてジローに宍戸が普段被るような帽子を被せられた。
「これ被って、宍戸が出ていったら外に出て?」
そんな帽子、普段ならいらねぇ!の一言でも言うのだが、今は緊急事態でもあるために言えない。
「よし、宍戸。忍足んところまでゴォ!」
「あぁ。……跡部。」
「なんだ?」
「――幸運を祈るぜ!」
そう勢いよく走っていった俺の格好をした宍戸。
アイツの足の速さならガードもついていくのがやっとだろう。
「宍戸がさ?跡部役をやるって言わなかったらどうなってたかな?……マジで身長同じくらいでよかったよな!」
しみじみ言うジローの頭をクシャッと撫で回して言った。
「感謝してる。」
「……うん!」
「ありがとうなジロー。」
「ヘヘッ☆……あ、時間がもったいないC!」
「あの公園がオススメなんだろ?」
「うん!!忍足の姉ちゃんがここで働いてて、ゲート出るときに声かければ出してくれるからさ?」
「わかった。じゃあな、ジロー。」
「頑張れよ、跡部……」
ジローに手を振り、俺は不自然じゃないようにと渡された鞄を持ち、帽子を深く被りなおしてトイレから出た。
ロビー内を内心ハラハラさせて歩いていると、宍戸が言っていた喫茶店を通りかかった。
そこには忍足がいた。
宍戸が忍足の服を握り、胸に頭を付け、俯いていた。
俺の姿に気づくや、忍足がいつも通りにヘラッと笑ったのを見て緊張が解れた。
仲間に見送られ、俺は無事に忍足の姉に会うこともでき、ゲートを再び潜った。
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