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 そして、連れ去られた


翌朝、私は一睡も出来ず、目の下にクマが出来ていたけどなんとか化粧で誤魔化した。

私は寝室でまだ景吾が寝ているか確認してから携帯を開いた。

景吾の自宅番号を引っ張り出し、電話をかけた。


「もしもし?」

『先日お会いしました、景吾くんのクラスの英語の教科担任を務める者です。』

「あ、景吾がよくお話していた明良さんですか?」

『お母様、今回の件は大変申し訳なく思っております。先日、お父様にはお話しましたが「明良さん、景吾はそちらにいるのかしら?」

『……はい、すいません。』

「そう、ならいいのよ。安心して?夫と私の意見は違うの、」

『違うと言いますと?』

「跡部家は代々恋愛結婚でした。なのに主人がお見合い話を持ち込むものですから……私は景吾が明良さんと会ったことで成長したと見えます。」

『そんなことはありません。』

「そうでしょうか?夫は数々の女性を弄んでいた景吾しか知らないので、あなたに対しても同じように感じているんだと思います。」

『教師というのは余計だったのではないでしょうか?以前にもそんなことがあったと本人から聞いてます。』

「そうですか。主人は渡米することが多かったので景吾をあまり“見ていない”んです。ですから明良さん、私は景吾を貴女にお願いしたいと思っているくらいです。」


少し話をしてから最後に彼のお母様は諦めないでください、と言って電話を切った。

しかし、今の私と景吾の間には大きな壁があるように見えた。


「明良…?」

『ッ、おはよう。気分どう?』


私に手を伸ばしてきた景吾を拒否することも出来ず、景吾を抱きしめた。


「明良、どこにも行くな。」

『ここにいる。』

「……安心したら急に腹減った、」

『何か消化の良いものね。』


台所に移動し、病み上がりのときはお粥から、と思い、料理始める。

景吾にできたお粥を持っていこうとしたその時、私の携帯が鳴った。


「明良、鳴ってるぜ?」

『うん、』


携帯を手に取り、ディスプレイを見ると“跡部景吾”の文字。

目の前に景吾が携帯をさわっている様子はない。となれば、自宅からだと結論付く。


『もしもし?』

「明良さん、大変なの!」

『どうされましたか?』

「さっきの電話、盗聴されていて主人が――」


そうお母様が言った直後、部屋の扉が勢いよく開いた。


「明良先生、息子を返してもらえるかな?」

「親父っ、」

『……』

「二度もこんなことに……なにを考えているんだ!!」


大きな手で頬を叩かれ、バチンッ!!と良い音が出た。


「明良!」

「ふん、よし。景吾を連れて行け、」

「「はい!」」


SPと呼ばれるガードマンらしき人たちが景吾を連れていく。

私にはなにも出来ない。


「離せぇ!明良ー!」

「別れを告げるんだな、景吾。二度と彼女に会うことはないだろうからな。」

「俺はなにも聞いてねぇよ!明良、明良ー!!」


抵抗するも何の効力もなさず、彼は連れて行かれた。


『私は彼を介護していただけです。この部屋の合い鍵を彼が持っていて「言い訳は聞かない!」


そう話も聞かず、父親は景吾の後を追った。

どう足掻こうが、運命は変えられないことをよく理解した。


『…結局、泣き寝入りなのね――』





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