悔し涙を拭う
寝室から出てきた私に亮くんが気づく。
携帯から目を上げるや、何ともいえない顔をしていた。
「跡部のヤツ寝た?」
『うん、……あ、片づけてくれたの!?』
見れば部屋の中が程良く片づいていた。
亮くんは苦笑しながら暇だったんで、という。
「……兄貴から聞いたんだけど、別れたって。」
『うん、』
「跡部のこともう好きじゃねぇの?」
『違うの。景吾に冷めたとか、飽きたとかじゃなくて……景吾には景吾の人生があるから、』
「跡部の望む人生は明良さんと幸せになることじゃ…」
『そうかもしれない。でも…ご両親の意志を無視してまでそんなことしてほしくないの。』
「じゃあ、跡部は親のいいなりになって生きてくわけだ?」
亮くんは立ち上がると私を哀れんだ目で見る。
「“跡部の人生”なんだろ?」
『……亮くん、でも私はご両親に約束したの。』
「んなもんクソくらえだっつの!」
『景吾は……きっと私が必要だって言ってくれると思うの。でも私はもう「必要ねぇの?」
『…仕方ないの、』
「明良さん、マジで後悔する前に跡部を受け入れてやってくれよ!アイツ、明良さんに会って変わったんだよ!明良さんがよく知ってるはずだろ!?」
『ごめん、亮くん。これ以上は…』
「……そっか、」
残念そうに顔を歪め、亮くんは玄関に向かった。
『いろいろありがとう。浩太郎にはお金早いうちに返すって伝えてくれる?』
「はい、」
靴を履き、玄関のドアに手をかけてから亮くんは言った。
「俺、跡部とガキん時から一緒でずっと見てきたけど……跡部が笑うのって明良さんの前だけなんだぜ?知ってたか?」
捨て台詞を吐き、彼は出ていった。
景吾がどれだけ愛してくれてるか私が一番知ってる。
だから辛かった。
周りから“おまえの気持ちはそんな程度だったのか?”と冷たい目を向けられている気がして……
『どうにもできないもん……』
ただ、泣くことしか出来ない私は子供のようだった。
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