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 わがままな彼氏


残念だけど私だって教師としての立場があるし、仕事もある。

だから景吾のすべてには応えられない。


「俺ならなにより明良を優先にしたはずだ。」

『……』

「俺はこんなに愛してたのに、」


それだけ言い残すと景吾は教室から出ていった。


『みんなごめんね。じゃあ、ここの英文の訳だけ「明良先生、」


一人の生徒が私を哀れんだ目で見てくる。


「跡部さんのところ行ってあげてください。」

『だって授業ちゅ「跡部さんのこと大切じゃないんですか!?」


みんなの意見に答えるのも大切だと思い、生徒たちを置いてすぐに景吾を追いかけた。


『屋上かな?―――景吾!』


鉄の冷たい扉を開けると景吾の姿があった。


「あん?」

『景吾ごめん、』

「もういい、」

『景吾も大事だけど仕事もしなくちゃいけないの!だから「もういい。これ以上惨めな思いはしたくない!!」


何を言っても無視され、追い払われた気がした。

聞いてなくても言わないといけないと思った。


『私は愛してるよ、』


そう言えば、振り返って必死に彼は訴えてくる。


「だったらもっと――!」


景吾が言葉を詰まらせたのを見て私は決心して口を開く。


『なら辞めるよ……この仕事、』

「ッ、」

『それでいい?』


景吾に近づき、自分よりも遙かに背の高い彼の頭を撫でる。


「バカ、」

『ごめん。』


困らせるつもりはなかっただろう。

しかし、ガキだから我慢しきれなかったのかもしれない。


「わかればいいんだよ、」

『いいね、ガキは。』


先の先まで考えるのは大人の良いところ。

気持ちを制御したり、なにかを我慢できるのも大人の良いところ。

子供の考えを理解できずに第三者的に眺めてしまうのは大人の悪いところ。


「娶(めと)ってやる、」

『え?』

「教師なんかより俺の妻になれよ。」

『……な、なにバカなこと言ってるの?』

「本気だ、」


景吾の目を見て、冷やかしではないとわかる――でも、簡単じゃない。


『景吾ってば本当にガキだね。』


涙が一筋流れると次々と溢れる。


「ガキなりに考えてんだよ、」

『先のこと考えてないでしょ?』

「先のことを考えすぎて恐れちまうのは大人の悪いところだぜ?」

『……ごめんなさい、』


薬指にキスを落として景吾は言った。


「こんなガキですが結婚してくれますか?」


明日がどうなるかなんてわからない。

こんなワガママな人を相手にしてたら疲れちゃうかもしれない。

逆に景吾が私に飽きちゃうかもしれない。


『私……』


でも気持ちを抑してまでこの申し出を断ることにメリットはあるのだろうか?


『私なんかでよければ、』

「俺は明良なんかじゃなくて明良じゃないとダメなんだよ。」

『……はい。』

「ようやく明良のすべてを手に入れた。仕事にヤキモチ妬くなんてみっともねぇよな、」

『……それだけ私を愛してくれてるんでしょ?』

「当たり前だろ?」


独占欲が強くて、考えがガキ臭くて、かなりワガママで、でも、私だけを愛してくれるその強い意志だけは大人の私を越えたもの。


景吾、いつの間には大人になったの?


むしろ、ガキだったのは私のほうかもしれないね――…




6話から続編



あきゅろす。
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