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 仕事をする彼女


翌日の学校では景吾の態度がよそよそしかった。

すれ違うとき、大抵の生徒は挨拶してくれる。

なのに景吾ってば、なにを拗ねてるのか知らないけど頭しか下げやしない。


『だからガキって言われるのよ。言いたいことはハッキリ言いなさい。』


そう、すれ違い際に言うと景吾たちの教室に入った。


『始めます、』

「起立―――礼……着席。」


ガタンガタンと椅子が音を立てている時、私は教室の空席を確認していた。


『(景吾は欠席……と、)』


景吾は教室の前ですれ違ったから今日はサボりと決めつけ、自分の出欠記録簿に印を付けた。

それと同時に教室の扉が開いた。

足音が徐々に近づいてきて目の前で立ち止まった。

その相手を予測してそう言う。


『……跡部くんは欠席だと思って印つけちゃったよ?』


私は出欠名簿にほかの生徒の名前を書いていたが、一向に目の前にある影は動かない。

顔をあげて視線を合わす人物が景吾であるのは言うまでもない。


『……早く席につきなさい、跡部くん。』


それだけ言うと持参のチョークケースの蓋を開けた。

これから授業を始めると言うのに景吾は動きもしない。こえなかったの?跡部くん。』

「ムカつく、」

『………授業の邪魔をするなら教室から出てくれる?』


緊迫した空気が教室を漂っていた。

他の生徒たちは何も言いはしないが恐らく内心ハラハラしていただろう。


「いつも余裕ぶりやがって、」

『……私は大人、君は高校生。その違いよ。』

「俺はこんなにおまえに対して余裕がないのに、」


他の生徒たちの前でなにを言い出すのかと一瞬、焦って冷や汗をかいた。


『授業始められないんだけど、』

「授業?そんなものより大事なものがあるだろ?あーん?」

『……教師として生徒に勉強を教えるのが最優先、』

「…………クソババア。」


景吾がそう呟いて顔がきひつった。

上等だわ。


「ガキ扱いしやがって、」


無視してチョークを握り、教科書を持って黒板に手を伸ばした。


「……わかってくれねぇんだな、」

『……仕事だもん景吾。』


彼のか細い声を聞き逃しはしなかったから小さく返事として呟いた。


「俺より仕事をとるのかよ?」

『(仕事をしないと生活できないし。景吾にかまってあげたいのは山々だけど、)』


それは大人の世界で大人の意見だから景吾には説明しても仕方ないかもしれない。


「黙(だんま)りか。ずりぃよな。」

『いい、跡部くん?それが大人と子供の違いよ。』

「……なら俺はいつ明良に並べる?」

『さぁ……跡部くんが仕事をするようになったらじゃない?』

「俺は仕事をするようになっても優先順位は間違えねぇよ。」

『なにそれ。私が間違えてるみたいじゃない?』


大きな音とともに黒板が揺れた。

黒板を景吾が殴ったのだ。


「なんでわかってくんねーんだよ!!」

『悪いけど授業の邪魔になるから出ていって。あまり私を困らせないで。』


そう言うと景吾が歯を食いしばったのが視界に入る。


「明良は俺より仕事が大事なんだな?」

『……そうは言ってないよ。』

「もういい、」


景吾はそう言うと私に背を向けた。

その背中は寂しそうだった。





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