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 慰謝料


彼の要求は簡単なようで難しかった。


「キスでいいぜ?」

『な、なんで慰謝料がキスなの!?』

「手っとり早くていいぜ?」

『……ヤダ、』

「なら俺からする。」


景吾の顔が急に近づいて急いで口に手を当てた。

それはマズい。


「………手退けろ、」

『ヤダ。』

「なんだよ。ガキだからキスは下手だと思ってんのか?」

『うるさい!!』

「でも残念だな?力で男にかなうわけねぇだろ、」


口を塞いでいた手を捕まれ、唇を覆うものがなくなると景吾が口元をあげた。


『離してよ跡部くん!!』

「ヤダ、」

『ん…!!』

「大人のくせにキスの一つも出来ないのか?あーん?」


バカにされてカチンときた。

でもそこで気持ちを抑えてこそ大人だと思った。


『……キスくらい出来る。』

「じゃあ、やってみろよ。」


からかうように言う景吾。


『残念ながら未成年は恋愛対象外。だからキスはしないの、』

「………どんなに押してもダメってことか、」


景吾は服を適当に整えて私を見た。


「俺の手にかかって落ちない女なんかいなかったのにな。」

『タラシ、』

「……俺は一途だ。」

『どこが?』

「今は明良が好きだ。」

『ありが―――え?』

「好きだから落とす、」


ジリジリと歩み寄ってくる景吾に後ずさりした。

ドンと言う音と共に背中に壁が当たると少し遅れてバンという音が耳に響いた。


「俺と付き合えよ、」


目の前には景吾がいて、景吾の両手は壁にある。


『なんで?』

「好きだから、」

『……私は教師。』

「俺は生徒、」

『わかってるなら他を当たりなさい。』

「明良じゃねえとヤダ、」

『わがまま!』


景吾を退かそうと胸板を押すけどびくともしない。

ふと前も同じようなことをしたな、と思い返した。


「気は変わったか?」

『変わらない、』


そう言って顔だけを背けた。

すると景吾は静かに話し出した。


「……正直な話、傷ついた。」

『……』

「明良が俺を生徒以外に見てくれなくて……しかも、他の生徒と何も変わらなくて、」

『年の差故、仕方ないことだよ。』

「本当にそうなのか?」

『違うとでもいいたいの?』

「俺を一人の男として見てくれるまで諦めないぜ?」


景吾の目を見れば嘘ではないと理解した。

諦めた方が良さそうだと思った。


『……わかった、』

「あん?」

『試しに3ヶ月、』

「3ヶ月?」

『2年生になる前まで付き合ったあげる。』

「…………本当か?」

『女に二言はない、』


恥ずかしくてそっぽ向いたけど景吾が気になってチラッと見ればすごく嬉しそうにしていた。


「なら、俺を呼ぶときは跡部くんじゃなくて景吾だからな。」

『……はいはい、気が向けばね。』

「仮にも彼氏なんだから少しはらしくしろよ!」

『だから気が向いたらね。』

「ムカつくな、」


本当は嬉しかったのに素直になれない自分をすこし責めた。


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