5.5
夏の快晴、蝉がやかましく鳴いた。
本当なら今頃夏休みを満喫している頃で、海とか山とかプールとか、
定番の遊びくらいは一通りこなしていたかもしれない。
ただひたすら自宅に篭る夏休みは退屈でしょうがなく、
今日もまた何をするわけでもなくベッドにごろんと転がって天井を見上げる。
"転校することになった"
直政の頭の中で豊久が呟く。
思い出しただけで苦しくなる胸を、ぎゅうと押さえるように枕を抱きしめた。
あの日、
豊久の懇談のあった日からまともに会っていない。
あれからプリントを居間のテーブルに投げて折り返すように学校へと向かい、
小道のあたりで豊久を見かけたものの、
隣に伯父の義弘がいたのでは想いを告げるわけにはいかず、
勢いで思わず道の脇に隠れてしまった。
すぐにでも伝えたい気持ちが心臓を小刻みに打ち鳴らして、
伝えたらどんな顔をするんだろうと、妙な緊張が息苦しくさせて。
出るタイミングを図る為に耳をすませば、僅かに聞こえる二人の声。
「ワシの為に…すまぬ」
「いえ、伯父上の為なら」
俺は何処へでもついて行きます、
申し訳なさそうに物言う伯父に、豊久は気になさらないでくださいと笑う。
「豊久、何処へ行くんだ?」
何処へでもって何処へ?
並々ならぬ雰囲気にたまらず前へ出て道を塞いだ。
足が震えて膝に力が入らない
頭が痺れてちゃんと喋れてるのかも分からない
自分を見る豊久の顔が驚きから曇り顔に変わる。
空が落ちてきたんじゃないかと思えるくらい、目の前が真っ暗になった。
「遅かれ早かれ、告げねばならぬことだ」
背を押されて漸く口を開いて出てきた"転校"の言葉。
伯父上の仕事場が変わるからとか、忙しくなるだろうから手伝いたいんだとか、
他にも色々言っていたような気はするけどもほとんど覚えていない。
今頃は引越し先で家の手入れでもしているんだろうか。
バタバタと忙しそうな姿を見せられて話しかけられず、
早く伝えたいのにと、気持ちを逸らせた。
天井からカレンダーに目を移す。
赤丸印を付けた八月十五日、夏祭りの日。
この日だけはどうしてもと約束を取り付けた。
やっと、
やっと豊久に会える。
鈴渡セツ/2009.11.15.
プロット:kanata
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