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             5.3









夜、豊久らしくもなく何度も何度も寝返りを打って、
ボスンと布団に顔を埋めた。
干された布団の匂いが直政の匂いに似て。


ふとした時に浮かぶ、直政の顔。
自分はどんな顔をしていたのだろうかと思う。


顔が浮かぶとドミノ倒しのように事の流れまで過ぎり、
いたたまれなくなって頭を振った。
羞恥以外の他ならない出来事を振り払えば、
"どうして"だとか、"何で"だとか、
疑問符だけが湧いて行き所なく詰まっていく。



好かれているかもしれない。
でもそれが自分の勘違いだとしたら、

幼馴染を越えた"事"だったかもしれない、
でもそう思っているのが自分だけだとしたら、




もやもやとした気持ちにぎゅっと胸を押さえた。
直政の気持ちが分からない、それが酷く苦くどうにもやりきれない。
そんなままあんな風に触れられるのは、
「そんなのは困る」
小さく一人ごちて、
"どうせからかっているんだろう"と決め込んでうずくまる。




呼吸をするたびに香る、太陽の匂い。
目をつむり包まれれば次第にまどろんで夢に落ちた。





*****





会ったら最初に何て言おうか。





玄関のドアを前に直政が仁王立ちで腕を組む。

朝に会うんだから"おはよう"で良いよなとか、
すぐに話を始めないと豊久は逃げるかなとか、
色々と考えては首を捻り難しい顔をした。


昨晩布団に潜り込んであれこれ考えてはみたものの、
気の利いた言葉なんかは一つも出ずに、
考えれば考える程言い訳じみているような気がして、
結局一言で伝えるしかないと意を奮い立たせ。


何故順番を間違えたんだと自分を責めはしたけれども、
それでもやっぱり豊久が好きでしょうがない。


悪口を言われても殴られたとしても、その時はその時だと、
ひときわ眉根を寄せた後に"よし!"と大きく首を縦に振ってドアを開けた。





学校へ着けば期末テストの答え合わせやら三者懇談の話やら、
夏休み間近の恒例行事がてんこ盛りでなかなか豊久に声を掛けられるタイミングが無く、
朝におはようと挨拶を交わしただけで、
大した会話もないままあっと言う間にSHR開始のチャイムが鳴った。


一日中そわそわしっぱなしの直政が豊久に目をやってみても、
豊久はプリントを見つめて目を離さず少しもこちらを見ようとしない。
いつもと何も変わらない豊久に、ほんの僅か胸が痛む。



あんなに昨日は名前を呼んでくれたのに、
あんなにずっと、自分を見てくれてたのに、



「今日懇談があるやつは残っておくように」
勝手に帰ったりするなよ?
担任の声にふと我にかえった。
教科書がパンパンに詰められた机の、奥を探って出てきたプリントに珍しく頭を抱え。
"三者懇談日程案内"
そう書かれた保護者宛の紙切れを見れば、自分の名前が明日の欄にある。
養父として育ててくれている家康の多忙さを思うと申し訳なさが湧いて、
終了のチャイムと同時に慌てて飛び出した。





チラリと見た豊久に後ろ髪を引かれる。
窓の外を見る、どこか寂しげな姿が焼きついて。







鈴渡セツ/2009.11.15.
プロット:kanata




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