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点と線を繋げて









(ゆら、ゆら、ゆれる、ゆめのなか。)

(ぼくはきれいなひとにあいました。)

(でもそれはゆめのなか。)

(あのひとは、とってもやさしいめをしてました。)







 ぱちり。突然夢から浮上して目が覚めた。辺りはまだ暗闇。うっすらと窓から月の光が机を照らしているくらいの微かな光しか、今この室内にはなかった。耳を澄ませば自分と首もとでうずくまって寝てるミカゲと同室のハクレンの規則正しい呼吸、そして時計の時を刻む音が聴こえる。

(……昔の、俺?)

 今し方見た夢を思いだそうとした。しかし、所々印象に残った部分しか思い出せなくて、テイトは小さく唸った。
 思い出そうとしても思い出せない。脳の片隅に靄が掛かっているようで、もやもやと気になって仕方がない。まるで自分の記憶のようだと自嘲気味に笑った。

 もう一度眠れば、その夢の続きを見れるだろうか。どんな内容か詳しくは思い出せないが、とても心地の良い夢だった。
 あたたかくて、やさしい、夢。
 幼い自分が目を細めて、その心地の良い温もりに揺られながら、何かを囁くやさしい声に微笑んで――……

(…もしかしたら、ファーザーかもしれないな)

 幼い頃は、良くファーザーに抱かれて眠ったものだ。
 テイトは小さく微笑んでシーツに顔を埋めた。断片的な記憶だが、確かに与えられた温もりを思い出して、今は亡きファーザーの思い出に浸りながら再び眠りにつくために瞼を伏せた。


(ぽかぽか、ぽかぽか、やさしいきんいろ。)

(あなたは、あなたは、だれですか?)



(きんいろ?)


 ぱちり。
 目が覚めた時、辺りは既に明るくなっていた。テイトは暫く呆然と、今見た夢を思い出してみて(同じく印象に残った部分しか思い出せないが)、その夢の中の光景に疑問符を浮かべた。
 幼い自分を抱くその人物の輪郭は朧気でまったく思い出せないが、金色の、金色の何かが目に映ったのは覚えている。

(金色、きんいろ…?)

 ファーザーとの記憶の中で、ファーザー以外の人物にあそこまで心を許す人はそうはいない。では、ファーザーとは関係が無いのか。ならば一体あの金色の人物は何なのか。疑問ばかりが生まれてくる。

「やっと起きたか」
「…あ、ハクレン…」
「寝坊助め。珍しいな、お前がギリギリまで起きないだなんて」

 危うくひっぱたいて起こすところだったぞ。そういう戦友に、テイトは「おはよう」と小さく苦笑を漏らした。

「そんなに良い夢だったのか? お前、寝ながらにやけてたぞ」
「へっ!?」
「しかも涎垂らしながら」
「んなっ!?」
「冗談だ」

 口元を気にするように拭っているテイトにハクレンはからかいの笑みを浮かべて、コツンと額を小突いた。実に楽しそうな顔をして。

「からかったなーっ!」
「寝坊したお前が悪い。だが、にやけた寝顔は本当だぞ」

 お前のあんな顔が見れるなんてな。ハクレンはくつくつと肩を震わせて笑いながら「遅れるなよ」と言って部屋を出た。その言葉にテイトはベッドから飛び上がる。そう、自分は司教見習いなのだ。司教見習いの朝は早い、普段ならもっと早くに起きるのに。
 部屋に残されたテイトは、急いで顔を洗いながら、二度寝をしてなのか珍しく出来た寝癖を乱暴に直し、素早く着替えて部屋を跡にした。

(そんなに良い夢だったのか…?)
 
 教会の仕事をこなしながら、朝ハクレンに言われた言葉を思い出した。
 良いか悪いかと問われれば、確かに心地の良い夢だったのは確かだ。ただ、未だに解決しない疑問に釈然としない。

「きんいろ…」

 箒を持つ手を動かしながら、ぶつぶつと呟いていると、突然髪の毛をわしゃわしゃと掻き乱された。

「う、わっ!?」
「なにブツクサ呟いてんだテイト」
「え、ふ、フラウ!?」

 気配を消して近付いた男のその声に驚いて振り向けば、大きな欠伸を一つして、その大きな手をテイトの頭から離した。
 乱れた髪を手櫛で直しながら、何するんだと悪態をつきフラウを睨めば、額をコツンと拳でつつかれ、返事の代わりにもう一度欠伸が返ってきた。

 狩りの仕事が長引いたんだろうか。いつにもまして眠そうなフラウに気付いて、テイトはフラウの頬をぺちぺちと数回軽く叩くと、やめろ、と眉間に皺がよる。
 今にも眠りに落ちそうなその据わった目に、テイトは一つ溜め息をついた。

「少し寝てくれば? 朝の仕事ぐらいならお前の分までやっておくから」
「あ? んなこと出来るかよ…、ジジイに殺される」
「…フラウ、寝てないんだろ?」

 普段から狩りの為に睡眠時間が短いフラウのことだ。寝不足など昨日今日と限られたことではないのだが、今度に至っては余りにも酷い顔をしている。普段からガラが悪いだの、外見はまさに不良司教なのだが、こんな顔をして仕事なんて、むしろそっちのほうが注意されるんじゃないのか。

「いいから寝てこいよ。 誰かに添い寝でもしてもらわないと寝れないような子供でもないんだから、寝れるだろ?」
「けっ、――じゃあお前は子供だな」
「はあ?」

 フラウの指が、テイトの肩に乗っかる子竜を指差す。

「お前はこいつがいないと寝れないだろ?」

 このクソガキ。そう孕んだ視線を向ければ、刹那、フラウは子竜に指を噛みつかれ、テイトからは「ミカゲを馬鹿にするな!」と手持ちの箒を投げつけられる。
 テイトはフラウの自室に向かって背中を強引に押しながら、後で起こしに行くからな、と小さく呟きながら、

「おやすみ」

 フラウの自室のドアを閉めながらそう告げて、その場を跡にした。

 フラウは一つ溜め息を付いて後頭部を掻く。
 おいおい、と小さく呟きながら、テイトの半ば強引なその行動に少々呆れた。フラウからすれば、寝不足など日常茶飯事なわけで。確かに久方振りに睡眠不足だと感じるほどの倦怠感が身体に残るものの、フラウにとってそれは然したる問題ではないのだ。

(だが、)

 今し方テイトが去っていったドアと愛用の棺桶を交互に見ながら、アイツは頑固だからなぁ、と苦笑して、司教服を身に纏ったまま脱がずもせず、まるで吸い込まれるように棺桶の中に身を沈めた。
 何か物足りない気はしたが、日々たまっていた疲労感によりフラウはすぐに眠りについた。










「フラウ」

 聞き慣れた声に、ぱちりと目が覚めた。
 視界にはテイトの顔。窓を覗けば日は既に高く、ちょうど昼過ぎあたりのようだ。

「おはよう、フラウ。少しは眠れた?」
「ああ…」

 フラウのまだ寝ぼけた声にテイトは、それはよかった、と小さく笑み、「カストルさんから伝言」と笑みを深めながら続ける。

「今日は夜まで休みでいいってさ」
「ああ?」
「“今回は特別ですよ”だって」

 一体何をしたらそうなるのか、あの眼鏡がそんなことを言うなんて槍が降りかねない。
 呆気に捕られてるフラウをよそに、司教服ぐらい脱いで寝ろよ、とテイトはフラウの司教服の裾を引っ張ろうと手を伸ばす。だが、その手をフラウの手によって防がれ、逆に自分の腕を掴まれ引き寄せられた。

「う、わっ」

 身体が半分、棺桶に入った。テイトはフラウのその突然で強引な行動に怪訝な眼差しを向けようとするが、その視界一杯に広がるフラウの寝ぼけ眼と金色の髪にその思考は制止される。

(きんいろ…)

 小さく、小さく心の中で呟き、そしてストンと何かを納得するかのようにもやもやとしていた気持ちが収まった。

「眠い」
「ちょ、フラ…ッ、あいたたたたたた!」

 フラウはテイトを枕にしようと身じろぐが、何分体制的にも無理がある。軋む身体が悲鳴をあげて、わかったから、とテイトはなすがままにその棺桶の中に身を滑らせた。
 すぽりとはまった躯。それでいい、とでも言わんばかりに抱くその逞しい腕に、テイトは気恥ずかしくなった。

(まるで、まるで、)

「夢みたいだ…」

 頭上からは静かな寝息。温もりが心地良いのか、がっしりと拘束する腕に苦笑が零れる。

(ああ、どうしよう)

 俺まで眠くなってきた。
 テイトは紅く染めた頬をフラウの鎖骨にうずめ、小さく欠伸をした。
 今寝たら、カストルさん辺りに確実に怒られる。フラウとは違って、自分にはまだ仕事が残っているのだ。

(――でも、)

 この夢のような心地良さに負けて、自然と瞼が閉じてしまう。

 ああ、どうしよう。

「……怒られるなら、フラウも一緒だぞ」

 聞こえているのかいないのか。
 フラウの顔を覗きながら、テイトは先程自分が言った台詞を思い出した。そして手を伸ばして頬をぺちり。

「お前も“子供”じゃないか」

 抱くその腕が何よりの証拠。テイトは嬉しそうに微笑んで、今ならあの夢の続きが見れそうだなと瞼を閉じた。




 と線を繋いで


(きっと次はあなたの夢)





 


フラテイ夢ネタ。なんだか消化し切れてないかんじですが、夢は願望の表れともいいますからね、テイトくんには是非フラウの夢を見てほしいと!そう思って書き殴らせていただきました。
あとちょっと子供っぽいフラウとか。
二周年記念にと思いまして甘めなのにしたかったのですが、甘いのか判別がつかないくらい微妙な甘さ…\(^o^)/

ここまでお読みいただきありがとうございました!

2010.7.5


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あきゅろす。
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