カタルシス
――無力な自分が堪らなく疎ましく思った。
アヤナミに操られていた軍の人間によって深傷を負わされた。酷く痛み熱を帯びる傷口は、いくら押さえても血が溢れ出す一方だった。
“俺から離れるんじゃねえクソガキ”
頭上から聞こえてきた怒りを含んだその声に、いつものように反論が出来ない自分が悔しくて下唇を噛んだ。
自分を心配しての言葉なのは分かる、しかし、これ以上の迷惑は掛けたくなかった。
「…いらない」
歯の間から小さく零れ落ちた言葉に、フラウの体がピクリと動く。視線をテイトに落とすと、なんだと?と、視線だけで返した。
テイトは左腕の傷口を強く握り締め、上手く動かせない血だらけの手で、自分を抱きかかえるフラウの手に触れ、フラウの胸に凭れた。
(これ以上フラウに迷惑掛けてどうするんだ…――)
怒気を放つ体とは裏腹に、その胸は、やけに静かだった。
どこかに連れて来られたかと思えば、そこは宿屋の一室だった。
カペラは店主に預けていたので自分に何か話が有るのだろう。どんな内容かは薄々気付いているけれど。
「傷口、見せてみろ」
寝台に降ろされ、服を脱ぐよう促されるが、それくらい一人で出来るとテイトはフラウの手にある包帯を掻払った。
「ガキ扱いすんな」
「………」
不機嫌に染まるフラウを無視し、コートのボタンを一つ一つ外していく。三つほど外し終えると、先程から肌を刺すような視線に堪えきれなくなり、一度視線をフラウに向けた。
フラウは近くの椅子に腰掛けていたが、口を開かずにじっとテイトを見つめていた。
しん、と静まる空気が耳鳴りを起こして、張り詰めた室内に冷や汗が背中を伝った。
自分に話があるんじゃないのか、と口に出したかったが、どうにも口が開かない。
自分を見つめる蒼い双眸に囚われ動けない。
ガタッとフラウは椅子から立ち上がる。その音に柄にもなく身体動揺した。コツリコツリと近づくフラウが、視線が頭上高くから見下ろしている。変わらず怒気を含ませて。
「…フラウ、怒ってる?」
「当たり前だろうが」
しかし、その顔には、怒気以外に哀しみが混じっていた。
どうしたのだろうか、とテイトが口を開くのより先に、フラウが動いた。
不意にフラウの手がテイトの左肩に触れる。そしてそのまま傷口に指を滑らした。
テイトはビリッと走る痛みに顔を歪まし、睨み付けるが、フラウは血の付いた己の手袋を口に含み脱ぎ捨てた。
「お前、死にたいのか?」
刹那、ドンッと胸に衝撃を受け、ぐるんと視界が反転し、天井が見えた。
フラウはテイトを寝台に倒し、組み敷いた。
「な、…っ」
ぷちんと自らボタンを外したフラウの、その下に隠された逞しい筋肉と、どこか熱を帯びている瞳に、体温がどっと上昇した。
強引に、引き裂くように脱がされ、人より冷たいその手が素肌に触れる。
「ふらう、なにして…っ」
まだ生々しく熱を帯びる傷口に、舌を這わせて味わうように口に含まれると、ぴりりと走る鋭い痛みと共に、全身に鳥肌がたつ程の痺れが駆け巡り、思わず詰めていた息を吐いた。
「は、っ…ちょ、ふら…」
テイトの唇を一通りなぞりながら、閉じた口を強引に開けようと指を数本ねじ込み、今にも泣きそうなテイトを無視してフラウは乱暴に口付けた。
「ふっ、んむっ…!」
冷たいフラウの舌が口内に侵入する。逃げ惑う熱感する舌を歯で柔く噛み引き寄せ、熱を奪うように絡ませる。
その冷たい舌からは血の味がした。
どうしてこうなったのか、性急に求められる行為により思考が回らなかった。
だが、唯一判ることは、
(しんぱい、させた…)
右手でフラウの頬に触れた。今にも泣きそうな哀しい顔に、ポロリと涙が零れた。
長く深い口付けから解放されて、霞む視界にフラウの顔が間近にあることを知らされる。
フラウはテイトの下唇を啄みながら、血で滲んだシーツを鷲掴んだ。
常に危険と隣り合わせだからこそ傍に付いてやらなければいけないのに、自分の甘さが招いた結果に、フラウは無性に腹が立った。
いっそ、自分以外に興味を示さないようにしてやろうか。
ふつふつと膨らむ醜い感情に眉を顰める。
「ふら…、う」
浅い息を繰り返すテイトの顎に指を添え、耳に唇を這わせて囁いた。
「そんなに死にたいなら、俺に溺れて死ね」
そう囁いた刹那、するりと後頭部に腕が回され、そのまま肩に抱き寄せされた。
「……め…ん、」
「ごめん、ふらう…。ごめん…」
小さく嗚咽を漏らす子供に、フラウは無性に哀しくなった。愛しさが込み上げてきて、傷を気遣うこともせずに、その華奢な身体を掻き抱いた。
「…もう俺様から離れるんじゃねえぞ、クソガキ」
カタルシス
(抑圧された醜いこの感情を浄化するのは、いつも愛しい人の声)
フラテイでシリアスなお話でした\(^o^)/
危うくR18になるところだったぜ…。
書きたいとこだけ書いたらグダグダになってしまった!…気がする!
ヤンデレちっくなフラウが書きたかっただけなんだ\(^o^)/
2010.3.10
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