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あまい、あまい、僕のami




チョコレート。
それはどこにでもある何の変哲もないカカオで出来たお菓子。
だが、この日だけはチョコレートの価値が変わる。


2月14日、それは世の男女が一番気を入れる1日。






 教会内の空気がおかしい。
 テイトは朝、すれ違う司教やシスター達のいつもと違う様子に気付いた。ソワソワしているようなシスターに、あからさまに挙動不審な司教もいた。そして、神聖な空気の中に、どことなく甘い香りが混じっている。

(どうしたんだ、みんな…)

 そんな光景を尻目に自室へ向かっていると、途中シスターに呼び止められ、綺麗に包装された箱を渡された。食べて下さい、と渡されたこの箱の中身は食べ物なのだろう。ほのかに甘い香りがした。教会の中を漂っている匂いと同じだ。
 他にも、自室に戻るまでにシスター達に何個か貰った。
 はて、何かあるのかと首を傾げていると、同室のハクレンに、今日がバレンタインだということを(呆れた顔をされながら)教えてもらった。
 想い人に想いを告げるのも良し、友愛として日頃の感謝を込めて渡すのも良し、バレンタインとは一過のイベントでもあるらしい。
 ただ不思議な事に、そこで男達は妙に張り切るらしい。女性からのプレゼント、例え義理でも貰えるということがステータスらしい。

(そういえば、以前ミカゲも言ってたな…)

――“バレンタインは男にとって戦争なのだ”と。

 女子の知らない水面下での争い。誰が誰に貰うか。誰が幾つ貰えるか。本命は、義理は。手作りかどうか。貰える数の分だけ女子からの好感度が高いということ。
 だが、どんなに大量に貰えても、結果本命からのチョコの奴が最後は勝利するんだよなー。

 と、軍学生時代の親友の言葉を思い出した。
 そういえばあの頃も貰っていたな。ロッカーの中に所狭しと入っていたときもあった。
 テイトはふっと自嘲気味に微笑し、ミカゲと名付けたフュールングの頭を撫でた。

「…フラウ司教は今年も大変そうだな」

 ハクレンも貰ったのだろう結構な量のチョコレートを紙袋に詰めている。

「フラウ?なんで?」

 テイトはとりあえず自分が貰ったチョコレートを机に並べて置くと、ハクレンに紙袋を数枚渡された。

「フラウ司教は毎年大量にチョコレートを貰うことで有名なんだ。ほかの司教が妬む程な」
「へー…」
 
 あいつそんなに貰うんだ、と思いながら渡された紙袋に首を傾げる。

「なんで紙袋…?」
「フラウ司教も困っているだろうから渡してくれ。あと、俺程ではないだろうが、お前も相当貰うだろうからな。持ち切れなくなったらこれに入れておけ」
「いや、流石に俺こんなに貰わないと思うぞ…?」

 その言葉にハクレンは返答の代わりに意味ありげな微笑で返した。そして、机の引き出しから手のひら程度の箱を出し、テイトの頭の上にポンッと置いた。

「…?これ、」

 くん、と鼻を利かすと甘い匂いがした。もしやと思いハクレンを見上げると、そこにはいつも見るハクレンの笑みがあった。

「これは俺からだ」

 勿論、友愛としてな。と付け加えられて渡され、妙にくすぐったい気持ちになる。頭から手のひらに置かれた箱を受け取ると、自然と笑みが生まれた。

「ありがとう、ハクレン」







 ハクレンが言ったことは本当だった。
 テイトはこの現状に狼狽えていた。驚くことに、フラウの部屋まで行く間にシスターや日頃お世話になっている司教にチョコレートを貰ったのだ。ハクレンから渡された紙袋がこんなにも早く役にたつとは思わなかった。
 両手にはチョコレートが詰まった紙袋。右は自分の分で、左のはフラウ宛てのチョコレートだ。自分で渡せば良いのにと思ったが、あの悪人面に渡すのは勇気がいるよな…とテイトは二つ返事で了承した。


「フラウー、開けてくれー」

 ノックも無しに扉の奥に居るであろう人物に聞こえるように声を出すと、ノックぐらいしろ、と扉が開いた。

「しょうがないだろ、両手塞がってるんだから。あ、これフラウ宛てのチョコ」

 はい、と紙袋に入っているチョコレートを差し出すと、フラウは眉を潜めながら受け取った。

「お前って意外とモテるんだな」
「あァ?意外だァ?」
「だってフラウ悪人面じゃないか」
「んなっ」
「女ったらしだし」

 返す言葉が無いフラウをよそに、テイトはズカズカと部屋に入り、案の定甘ったるい匂いがするチョコレートだらけの光景に溜め息をついた。

「ハクレンが、紙袋を渡すのも解るな…」

 テイトは手当たり次第に散乱するチョコレートの箱を紙袋に詰める。人がせっかくお前の為にやったんだから大切にしろよな、と文句を漏らしながら。

 そんなテイトを見ながらフラウは自分のとは違う紙袋を見つけた。中には自分程の量ではないが綺麗に包装されたチョコレートの箱が結構な量入っていた。

「これ、お前のか?」

 フラウの言葉に一度手を止めると、ぶっきらぼうに、そうだ、と答えた。
 ――おもしろくない。
 フラウはおもむろにテイトに渡されたチョコレートの箱を開け、それに気付いたテイトの制止も訊かずに一口パクリと食べた。

「あ―っ!」
「…甘い」
「お前―っ!」

 それは俺のだぞ!と胸倉を掴むテイトに、フラウは益々不機嫌になって、テイトの顎を捕らえてそのまま口付けた。

「…っふ、!?…んぅむ…っ!」

 噛み付くような口付けに、テイトはびくりと震え、息継ぎが上手くいかず口を開けた刹那、ぬるりと冷たいフラウの舌が入ってきた。

「…んんぅ…ッ、」

(……あまい…)

 されるがまま、逃げる舌を歯で甘く噛まれ引き寄せられ絡まれ、朦朧とする意識の中、フラウの舌から伝わるチョコレートの甘さに脳が痺れた。
 口付けから解放されて息を調えていると、唇をペロリと舐められた。フラウは驚いて真っ赤になるテイトを寝台に乱暴に倒すと、その上に覆い被さり、二個目のチョコレートの箱を開ける。

「あ!だからそれは…」
「お前からは無いのか?」
「え…?」

 言葉尻を奪うように呟くフラウの言葉に、テイトはその妖艶な笑みに頬を染める。
 
 フラウは箱の中の手頃な大きさのチョコレートを一つ、テイトの口に入れた。

「……んむっ、?」

「俺様からはやったんだ、」


 ――お前からは無いのか?


 唇をなぞるように指で撫でられ、誘うように自分の唇をペロリと舐めるフラウに、テイトは目を見開いた。
 さっきのを、今度は自分がやれと。そういうことなのだろう。
 甘い、口内のチョコレートが柔らかく溶け、喉を下る。

 目の前で不敵に笑うフラウに、テイトはコクリと喉を鳴らしてその腕を首に回した。







あまい、あまい、僕のami



(渡すのは、チョコレート?花束?)

(――いいえ、あまいあまい、とけるようなくちづけ…)






1日遅くなりましたがバレンタインということで、甘いフラテイをと。
なんか、甘いのが書きたくて\(^o^)/
というよりこれ甘いのか…?
amiとはフランス語で恋人…だったはず!多分!

ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました。


2010.2.15


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