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盲目的恋心*
※パロ・一部裏注意






 貴方だけなのです。
 貴方だけ、貴方だけが触れて良いのです。
 この躯、この心も、全て、全て、貴方が望むのならば悦んで捧げましょう。







 彼との出逢いは決して情緒的なものではない。場所は陰間茶屋で、俺は陰間、貴方はお客。そう、ただそれだけだった。

 異国の殿方なのか、まるで月光のように煌めく髪に、まるで空のような透き通った蒼い瞳。綺麗だと思わず零してしまうほど整った顔。
 その見慣れないその瞳に、瞬きすら忘れてよく魅入ったものだ。
 そんな彼は一度ならず何度もここに足を運んでは、俺を選ぶ。
 余程の身分の高いお方なのだろうか。毎日のように足を運ぶ姿を見て物好きな者も居るもんだと、最初こそ思ったけれど、彼の優しさを知って、そんな彼に密かに芽生えてしまったものがある。
 ――恋情、とでも言ってしまえば綺麗なのだが、俺の場合は情欲が混じってしまう。こんなに触れたいと、触れてもらいたいと思ったことはない。
 貴方になら全てを捧げても良い、本気でそう思ってしまう自分が怖い。そんな自分にこっそりと苦笑した。

(ああ、でも、貴方はいつになったら、俺に触れてくれるのだろう)

 彼は俺を膝の上に座らせてお酌をさせるだけで、特に手を出したりしない。時折髪を撫でてくるだけ。
 普段相手をするお客と違う扱いに最初こそ調子が狂って戸惑ったが、それが彼の優しさだと知れば、好意に甘えてその逞しい胸に身を寄せ、その幸福過ぎる時間を噛み締めた。

 しかし慕っている相手から触れてもらえないのはとても切ないもので。
 きっとこれが恋心というものなのだろうか。

 絆されてしまったのか。否きっと、絆されてしまったのだ。

 客に情欲してしまうはしたない自分を彼は知らない。
 それでも、気付いて欲しくて情欲にまみれた視線を彼に送る。


「テイト」
「はい」

 空になった杯に酒を酌もうとすると、その手を止められ、カシャンと杯から零れた酒が着物に染みを作った。
 酒はいい、と。耳元で囁くその吐息に、躯が熱を持った。
 一体どうしたのだろうかと彼を見上げれば、見つめるその瞳は、まさにぎらついた雄の瞳。
 その視線の意味は、よく知っている。
 期待に胸を膨らませていく自分とは裏腹に、彼は眉を寄せて、何かに耐えるように俺の額に、額を寄せてきた。

「そんな目で、見るんじゃねぇ」
「…なぜ?」

 その艶やかな唇から吐く吐息は、どう繕っても情欲の証だろうに。

「俺の気も知らねえで…」
「私は陰間です。私は今宵一晩貴方に買われたのです。 そんな私に、我慢する必要もないでしょう?」

 はしたない、いやらしい、自分。
 こうする方法しか知らない。

「だが…」
「……私は、触れてほしいのに」

 自分でも自然と出た嘘偽りもない言葉に、噛みつくような荒々しい口付けが降ってきた。

 ああ、なんて高揚感。

 待ち望んでいたものが、やっと手に入れられる。
 たとえ、今宵だけのものだとしても。




 それはなんて野心的で、そしてなんて背徳的。

 武骨なその手はいとも簡単に帯を解いて、まるで這うように躯を弄ってくる。まるで呪術のように刻みつけられ躯を伝うその刺激に、まるで女のように鳴く自分が、この時は堪らなく愛しく思えた。
 やっと、やっと触れられる。触れてもらえるこの歓喜に、愛撫されているのに笑みが零れた。

「俺以外にも、そういう顔して誘って、さっきみたいな台詞を吐くのかお前は」
「……っは、ぁ…あぁっ」

(いいえ、いいえ、貴方だけ、貴方だけ)

 与えられ感じる刺激が強すぎて、目眩を起こした。

「…ぁっ、きもち、い…」

 躯全体が悦びに震えて、彼を求めて止まない。こんなこと初めてで、普段言わない言葉でさえ自然に口から零れた。

 あてがわれた灼熱の楔に、恍惚すら感じる。

「ひゃ、ぁアッ…!」

 打ち込まれ抉るように動く熱に、躯の奥が疼いて、何度も吐精してしまう。

「ふ、ふらう、さま…ぁッ、ンァアッ」
「…っ、く」

 感じで、感じて。
 愛欲にまみれた汚らわしい躯だけれど、今だけは。
 祈りに近い思いを、彼は知らない。知らなくていい。

 俺は陰間で、貴方はお客。

 それでも―――

「フラウ、さま……ァあッ!」
「、…チッ」

 小さな舌打ち、そしてその刹那に与えられる自分以外の熱に、腰をぶるぶると震わせた。躯の中に、感じる彼の熱。

 荒い息のまま見つめれば、彼もまた見つめ返してきた。その瞳に怒気は感じられないが、気のせいだろうか、その瞳を見ると切なくなった。

「フラウさま」

 ゆるゆると余韻で震える手で彼の頬に触れれば、優しく握りしめて、指先を愛おしそうに口付けてきた。

「テイト」

 指先の爪の間をなぞるように舌で舐められ、優しく名を囁かれた。

 まるで愛するものを呼ぶような、甘い声。

(きっと、ちがう)

 これはきっと錯覚だろう。自分の欲が生み出したものだ、きっと。
 だって、俺は陰間なのだ。愛することはあったとしても、愛される資格なんてない。

「テイト」

 こんな夢みたいなこと、起こるはずもない。

(なのに、何故こんなに優しいの)

「テイト、」
「…フラウ、さま」

 ぼやけていく視界に、たまらず瞬きをすれば、ぽろりぽろりと涙が溢れた。

「フラウさま」

 それを優しく拭ってくれる彼の手に、頬を寄せた。

 愛しい、愛おしい。

 くるしい。

 恋とはこんなに苦しいものなのだろうか。それとも叶わぬ夢だから余計に苦しいのか。

「わたしは、陰間です」
「知ってる」
「貴方は、ご自分の身分を分かっておいでですか」
「ああ」
「ならば、」

 この、紛れもない愛は何―――。

 それ以上は言わせないと言わんばかりに口付けられて、たまらず彼のその首に腕を回した。

(夢でもいい、夢でいいから)

 どうか醒めないで。

「フラウさま…」

 震える唇で舌で、口付けを返せば、うっすらと開けた視界の端に、彼が瞠目するのが見えた。

「こんな俺を、嫌いにならないで」

 小さく呟けば、きつく抱きしめられた。

 好きとは言えない。
 きっと、言葉にすれば困らせる。
 だから今日も、祈るように胸の内で囁くのだ。

「フラウさま」


(俺は、貴方を――――)



盲目的恋心



(お慕いしております)

(誰よりも、ずっと深く)





 

なんか身分の高いフラウ×陰間テイトくん、でした。
えっちぃのを期待してた方ごめんなさい。えろえろは難しいです。
陰間とは江戸時代を主に存在した所謂男娼のことです。詳しく知りたい方はぐぐって下さいな。私もそこまでよく知りませんので(笑)
相変わらずのグダグダ感、もうこれは一つのスキルだな。

2010.9.24


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あきゅろす。
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