かわいいゆめのおわり
きみは、まるでひだまりだった。
ぶるりと寒気に躯が震え、彼も寒くないようにと、目の前の存在を抱き寄せようと手を伸ばすが、いつもあるはずの温もりが、そこにはなかった。
(あ……、)
カペラと別れてからの初めての夜。
それは教会を出て、初めて一人で眠る夜。
自分の手を見つめ、最早無意識と言えるその行動に、無性に寂しさを感じた。
当たり前のように隣にいた存在は小さくても、自分にとってはとても大きなものだった。
いつも縋るように握ってくるその手は小さくて、しかし、とてもあたたかな温もりで、いつも俺を安心させてくれた。
(カペラ…)
最後にカペラを抱き締めた腕に、そっと触れた。思い出すように、慈しむように、瞼を伏せて触れた腕は、まだ温もりが残っているように感じて、小さく苦笑した。
ふわふわと柔らかい髪、ぽかぽかとした体温の温もり。いつも背中を押してくれた太陽のような笑顔。きっと忘れることはないだろう。
きっとカペラの魂は、純粋で、きらきらと綺麗な魂だと思う。そう思うくらい、カペラという存在は、俺にとって大きな存在だった。
「慣れないなあ…」
ポツリと零した言葉に、背後から声が掛かった。
「眠れねえのか?」
「……フラウ」
振り返ったその先に、隣の寝台でこちらに顔を向けてうつ伏せて寝ているフラウの顔と、視線が合った。
「寂しいんだろ」
「なっ…ちが……、」
いつもならからかいを含んだ声で気色悪い笑みで言ってくるのに、こんな時に限ってからかいもなく、真剣で、どこか慈しみを孕んだ瞳で見られて、本当は言うはずだった言葉を、脳内のどこかに見失った。
さびしい。そう、さびしい。
だってそうだろう?あんなに愛しいと思える子供が、去ったのだから。
「ひっでー顔」
「………うるさい」
顔を見られるのが嫌になって、顔を背けた。
自分でも判る。
今、凄く泣きそうだ。
「相手の事を想ってやったことなんだ。 それなら、別れることもまた愛さ」
「お前が“愛”とか言うな。気色悪い」
そう言う言葉とは裏腹に、フラウの放ったその言葉に、一瞬心臓が跳ねて、焦った。
――それは、いつか、お前も俺の傍からいなくなるのではないかという予兆に聞こえて。
「……何今にも泣きそうな顔してんだよ」
思わず再度振り返ってみると、彼が開口一番に放った言葉に、その表情に、本当に泣きそうになった。
困ったような、からかっているような、そんな、そんな優しい笑みを浮かべる表情、俺は知らない。
「手」
「は?」
「いいから、手!」
催促して伸ばされて手を、ぎゅっと握る。相変わらず嫌みなくらい大きいその手のひらに、知らぬ間に眉が寄るが、律儀に手袋を脱いで素手で差し出された手のひらに、少しだけ優越感に浸る。
なんだよ、とフラウが視線で語る。
理由を言いたくなくて、俺はまた顔を背けた。
「……手、握っててくれ」
ぼそりと小声で、しかもシーツ越しでくぐもって更に聞こえづらかっただろうに。それでもちゃんと言葉を拾って、握り返してくれたその手に、今度こそ涙が溢れた。
(…さびしいから、だなんて。言えるわけないだろ)
この男は、優しいから。
温もりを感じれば感じるほど、俺の心を照らしてくれた。カペラは光だった。
だから、次は、俺の番。
この身で何ができるかなんて分からない。ただ、俺がそうして貰っていたように、この男にも渡せないだろうか。
この、温もりを。
今は、指先からでいい。こうして伝わる体温に、少しでもいいから気持ちを知ってほしい。
お前を、どんなに大切に思っているかを。
かわいいゆめのおわり
(そしてそれは、愛しい朝のはじまり)
半ばグダグダに見受けられますが、そこは目を瞑っていただけるとありがたいです。
カペラとさよなら後のお二人。
本誌も購読してますが、どちらかというとコミック派なので、さよならのシーンは本当に感動して、カペラの泣き顔には腰が砕けるほど萌えました(笑)
半ばカペラの母ちゃんをやってたテイトくんですから、お別れはさぞ辛かっただろうに。それでもカペラもテイトも前に進もうとする姿は涙を誘いますな。カペラ狂の私には何度みても涙するシーン。
この話には反映されませんでしたがね(´∀`)
2010.9.5
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